講義・セミナー
学術講演会のお知らせ
以下のセミナーを開催いたします。
| 日 時 : | 2025年11月11日(火) 午後 4時〜 |
| 場 所 : | 理学研究科C棟 C509号室 |
| 講 師 : | 川澄 正興 博士(Ohio State University, U.S.A.) |
| 演 題 : | 紫外線によるDNA損傷応答、カフェイン、そしてエピジェネティクス: 皮膚がんの予防と治療に向けた新たなアプローチ |
講演要旨
皮膚がんは米国で最も発生頻度の高いがんであり、その主な原因はDNAを損傷し多数の変異を生じさせる紫外線(UV)照射に強く関連しています。皮膚がんを予防するためには、過度な日光曝露を避けることが極めて重要です。加えて、特に食事由来化合物による化学予防も大きな関心を集めています。疫学研究および我々のマウスモデル研究により、カフェインが紫外線誘発性皮膚発がんを抑制することが示されています。我々は、カフェインの皮膚がん予防効果において最も重要な標的が、紫外線によるDNA損傷を感知するATRキナーゼであることを明らかにしました。ATRの遺伝学的抑制は、紫外線によるアポトーシス(細胞死)を増強し、皮膚がん発生を抑制しました。
我々の最近の研究では、主要な紫外線誘発性DNA損傷のうち、6-4 photoproducts(6-4PP)はcyclobutane pyrimidine dimers(CPD)よりも少なく寿命が短いにもかかわらず、DNA複製の停止とATR–Chk1 DNA損傷応答経路の活性化を引き起こすことを明らかにしました。損傷特異的光回復酵素(photolyase)、森俊雄博士によって樹立された抗CPDおよび抗6-4PP抗体、多項目フローサイトメトリーを用いることで、我々はCPDと6-4PPのそれぞれの生物学的影響を生細胞レベルで正確に解析しました。その結果、CPDではなく6-4PPが、DNA合成中の複製ストレスおよび一本鎖DNAの蓄積を引き起こすことを見出しました。これらの発見は、6-4PPが紫外線曝露後のATR活性化の主要なシグナルであることを示し、紫外線誘発性皮膚発がんにおけるATRシグナル標的化の分子基盤を提供します。
さらに、紫外線誘発性皮膚がんには遺伝子発現を変化させるエピジェネティック異常も関与しています。次世代シークエンス解析により、発現低下とプロモーターのメチル化を伴う遺伝子が同定され、腫瘍の悪性化に寄与している可能性が示唆されました。治療的応用を探るため、我々はCRISPR–Cas9技術を用いて特定のゲノム領域におけるDNAおよびヒストン修飾を制御するエピゲノム編集ツールを開発しました。メチル化により遺伝子発現が抑制されていたp16プロモーターを標的にした結果、p16発現が再活性化され、皮膚がん細胞の増殖が抑制されました。これらのエピゲノム編集ツールは、がん関連遺伝子の発現を制御し、発がん表現型を抑制するための強力な手段となる可能性を有しています。
