講義・セミナー

学術講演会のお知らせ

以下のセミナーを開催いたします。

日 時 : 2025年11月28日(金) 午後 3時10分〜
場 所 : 理学研究科Z棟 Z103教室
講 師 : 木村 友則 博士(大阪大学・免疫学フロンティア研究センター)
演 題 : キラルアミノ酸の疾患横断的研究の展開

講演要旨

アミノ酸にはL体とD体の光学異性体(キラル体)が存在する。D-アミノ酸は自然界に存在しないとされてきたが、我々は、ヒトにD-アミノ酸がごく微量存在すること、各種疾患に対して高い診断価値を持つこと、さらには治療応用性があることを発見してきた。腎臓との深い関係から、D-アミノ酸研究を腎臓病の研究から開始したが、血中のD-アミノ酸、特にD-セリンとD-アスパラギン、の濃度は、腎臓病の検出や腎機能の評価において非常に感度の高いバイオマーカーであることを同定した。その背景には、腎臓が血中のD-アミノ酸濃度を尿排泄により厳密に管理している事実があった。腎臓の機能が低下したりすると、体内にD-アミノ酸が蓄積し、濃度に異常をきたすのである。D-セリンはバイオマーカーのみならず、生理作用も有する。D-セリンはL-アミノ酸しか認識しないとされていたmTorシグナルに作動し、腎臓の細胞増殖を促す。D-セリンは腎臓の機能を反映し、かつ、腎臓に作用することで、腎臓の機能を維持している。

 我々はD-アミノ酸の新しい視点からの医学研究を、他の疾患領域に活用することとした。向かった先は新型コロナウイルス感染症を含む重症ウイルス感染症である。PCR反応等を活用したウイルス検出法の開発は進んだが、未だに重症化予測や治療法開発は困難である。我々はウイルス感染症において、D-アミノ酸はバイオマーカーであり、かつ、治療の選択になりうることを発見した。D-アミノ酸の中でもD-アラニンには、ウイルス感染症の重症化を抑制する効果があった。そこでD-アラニンについて、その生理機能を追求した。これにより、D-アラニンには転写制御を介して概日リズムを維持する作用があることを発見した。この作用を介して、D-アラニンは糖代謝など、概日リズムに関する生物学的事象に広く作用している。D-アミノ酸の医学研究は腎臓病から始まったが、研究は感染症、生活習慣病、炎症性腸疾患など、領域横断的に進みつつ、新たな生命科学の領域を生み出しつつある。本講演では生命の根源に通じるキラルアミノ酸研究の最新の成果を概説したい。

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