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塾長・福田先生米国出張編
(2019年度)



昨年ハワイで開催された第一回に続き今年も神戸大学と米国ネブラスカ大学第2回学術シンポジウムが6月27日?28日に開催されました。開催場所はネブラスカ大学の所在するネブラスカ州リンカーンです。神戸大学側からの一行には河端研究科長、白井研究科長、と塾長、そして福田伊津子先生を含む若手教員5名、計8名です。まずは伊丹から成田空港、そこから

東へ12時間ほどかけてまずはシカゴのオヘア空港に到着。そこであの悪名高き米国入国審査の長蛇の列に1時間以上も並ばされてようやっと入国、

そこからあちらこら彷徨いながらなんとか国内線ターミナルに到達しました。

そこから小型ジェット旅客機に乗り換え、今度は西に向かってリンカーン空港へ2時間ほど、

夕暮れ時の機窓から近年稀に見る記録的大洪水で未だに氾濫した状態のミシシッピ川流域が見えました。

やがて一面緑で覆われて、ウシの群れがごま粒のように無数にちりばめられた広放牧地帯の景色が延々と続き現地時間午後9時にようやっと目的地のリンカーンにつきました。日本の自宅を出てから丸一日かかったことになります。

ネブラスカ州はほぼ米国の中央部に位置する州で、大きさは日本の本州ぐらい、でも人口は神戸市よりも少ない200万人です。その州都がリンカーンです。「リンカーン」という名前がついているので当然あの第16代エイブラハム・リンカーンの出身地なのでは?と思いきや、全くそうではありませんでした。(注:ケンタッキー州 ホーゲンヴィル出身)

翌朝ホテル周辺をちょっと散歩しました。人口25万のリンカーンは高層の建物もほとんどない小さな静かな街でした。

リンカーン駅には大陸横断鉄道アムトラックが停車していました。

ネブラスカ大学リンカーン校のシティーキャンパスは町の中心部の半分ぐらいを占める敷地の巨大な大学でした。

農畜産業が州の主要産業であることから特に農学において米国内で高く評価されている大学です。学生総数は約2万3千人とのことでしたが、訪れた時はちょうど学期間の休みだったので学生さんの殆んど帰省中とのこと、キャンパス内のその姿はまばらでした。

シンポジウムはリンカーン校附属の「Nebraska Innovation Campus」で開催されました。ここには農業・食品業の企業との連携のパイロット研究が精力的に進められている研究所が設置されていました。

その一画の集会ホールを借りてシンポジウムを行いました。まずは入り口付近でシンポジウムの参加登録を。

シンポジウムの開会に際してネブラスカ大学の副学長であられる Dr Michael Boehm から祝辞を頂き、河端研究科長と両校記念品の交換を行いました。

シンポジウムは「機能性食品」関連と「植物栽培」関連の2つのセッションが別々ホールで同時進行する形で行われました。心身ともに日本時間午前3時の時差ボケ状態の塾長でしたが、何とか「機能性食品」セッションの座長を務めました。


休暇期間にも関わらず熱心な大学の研究者、学生さん達がこのセッションに聴講にこられました。

神戸大学側からは食の安心安全科学センターの福田伊津子先生が本学で開発したヒト腸内細菌叢モデルを使った食品成分の腸内細菌叢へ与える影響について研究成果の発表をいたしました。腸内細菌叢は米国においても大きな研究トピックですので当然のことながらこの発表後に活発な質疑応答が行われました。

2時間のセッションが無事終了。ネブラスカ大学の食品学を学んでいる学生さんから「とても勉強になりました!」「腸内細菌叢のこともっと知りたくなりました」とご好評頂きました。


同じセッションではネブラスカ大学側から同校食品学の Dr. Jennifer Auchtung (福田先生の左)から彼女らが開発したヒト腸内細菌叢モデルを使った研究成果の発表をして頂きました。その後有り難い事に彼女に直々にFood Innovation Center内の彼女のラボを案内していただきました。

ラボの一画、実験台の上に嫌気チャンバーが設置されていました。チャンバー内では温度、ガス、湿度が管理されています。

チャンバー内の温湿度計です。気温37℃、湿度22%に維持されています。


嫌気培養で使用する6連の培養槽です。なんと3Dプリンターで作成されているそうです。が、3万円ぐらいで洗浄して8回ぐらいはリサイクル可能とのことでした。ランニングコストがちょっと高いような印象ですが・・・

嫌気チャンバーを正面から見たものです。手前にある袋からチャンバー内に腕を挿入することができます。内部に培地のストックがあり、使用前にあらかじめ培地をチャンバー内に入れておくことで培地を嫌気状態にします。

6連の培養槽(洗浄前)です。1つの培養槽の大きさが25 mL容で、15 mLの培地を入れて培養します。1本のチューブから新しい培地が流入、また、別のチューブからは古い培地が出ていく仕組みになっています。3本目のチューブからはサンプリングができます。


新しい培地をオートクレーブ滅菌します。オートクレーブ後に嫌気チャンバー内に入れて嫌気状態にします。

こちらも嫌気チャンバーですが、96穴フォーマットの培養装置になっています。 すべてオートメーション化されていて、プレバイオティクスのスクリーニングにも使用できるとのことです。我々がこれからやろうとしていたことがここではすでにオートメーション化されていました。これには福田先生も塾長もかなりの衝撃を受けました。「やはりアメリカはやるね・・・」と思いましたが、彼らのモデルを使った研究が専ら次世代シークエンサーを駆使した分類学的な細菌叢構成の解析であることで少しく安堵。なぜならば、この類のモデルを用いた研究で決定的な指標となるのは細菌叢ではなく代謝産物の構成だからです。Jenniferもそれが問題であることを認めておりました。

ということで、お互いに共有する問題の解消のための情報交換を進めて行きましょう!ということとなり、最後に同行案内して頂いた食品加工センターの Dr. Curtis Weller (塾長の左隣)らと記念撮影をしました。Jenniferには是非近い将来さらに改良された神戸大のモデルを見て頂きたいと思いを新たにした次第です。


シンポジウムの翌日。早朝から一行は大学公用のミニバスに乗ってネブラスカ大学の農業関係の施設の見学をいたしました。

町の中心から10分も走ると車窓からの風景はトウモロコシ、大豆、綿花の畑だらけ。このような風景が日本の北海道どころか本州と同じぐらい広さで州ほぼ全面を覆っていることを考えると「日本の農業は量ではなく質で勝負しかないのでは・・・」とついつい弱気になってしまいがちです。

町から東へ約50km、ネブラスカ大学の試験農場「Eastern Nebraska Research and Extension Center」に到着


まずはセンター広報担当の Deloris Pittman女史から農場の概要の説明して頂きました。

その後場内での肉牛の飼養実験の現場を視察、

案内して頂いたのはネブラスカ大学畜産学のDr Andrea Watsonです。生粋のネブラスカ大学出身、5年ほど前に反芻動物の飼養に関する研究で博士号を取得したそうです。餌の種々の配合がいかに繊細にウシの肥育や健康に影響与えるのかを丁寧に説明して頂きました。

農場見学の後は再び町中のキャンパスに戻り「Beadle Center」という施設に案内されました。この施設はネブラスカ大学のバイオテクノロジーの人材育成と技術サポートに特化したセンターだそうです。(詳しくは)

施設のロビー中央にはDNAの2重螺旋を模したオブジェがで?んと飾られていました。

ロビーの奥の壁に掲げられた記念プレート。今から90年以上も前にこの大学の農学部を卒業したGeorge Wells Beadleは「一遺伝子一酵素説」を提唱し、これによって1958年にノーベル生理学・医学賞を受賞されていることが刻まれていました。(詳しくは) この施設はその功績を讃え、命名されたのでした。塾長にも、福田先生にも神々しく写りました。

ネブラスカ大学の「売り」は学問だけではございません。塾長が2015年1月に訪れたフロリダ大学と同様にこの大学にも巨大なフットボールスタジアムがありました。Dr Michael Boehm副学長の粋な計らいで何とグラウンドにまで入って見学することができました。 花形大学対抗のビッグ・テン・カンファレンスの試合開催時にはコーンハスカー(「トウモロコシの皮むき職人」)と呼ばれるホームチーム応援のために9万を越える観衆を収めることが可能です。

シンポジウム盛会の祝いに町中で食事会。メインディッシュは勿論地元名物のビーフステーキ、それと最近この町でも流行のIPA( インディア・ペールエール: India Pale Ale)と呼ばれるビールです。通常のビールより色も苦みもアルコールも若干濃い目ですがガッツリしたお肉料理にはビッタリでした。

ちょっと気を許してデザートにアイスクリームなど注文するとこの盛りで一人分がデーンとテーブルの上に。淡々とした表情でその日を過ごされていた植物栄養学教室の和田先生も思わずこのリアクション。結局大人4人でアタック、賞味いたしました。

出張4日目。河端先生、白井先生そして塾長はリンカーンより別途カルフォルニア州はサンディエゴに向いました。途中コロラド州のデンバー飛行機の乗り換えです。搭乗ゲートがコロコロかわるので油断禁物です。

デンバー空港を飛び立ちしばらくすると残雪のまだら模様のロッキー山系を通過、

それから約1時間ぐらいで大陸西海岸に到達。この写真のごとくビル街の真上すれすれを滑空してサンディエゴ空港に到着しました。

サンディエゴ市内の「Santa Fe」駅は大陸横断鉄道アムトラックの西海岸南端の終着駅です。

サンディエゴ湾は米国屈指の軍港でもあり、朝鮮戦争、ベトナム戦争時に日本にも頻繁に寄港した空母ミッドウェイが今では水上博物館として町の波止場に繋留されています。

ダウンタウンのごみごみとした界隈ですがなんとメジャーリーグ野球のパドレスのホームグラウンドがあります。この日はセントルイス・カージナルス戦ということで相当賑わっていました。前田、ダルビッシュ、田中といった日本出身の投手陣に加えて大谷君も試合のため訪れる場所です。


大きな国際学会の会場となるコンベンションセンター前の横断歩道にはロスアンゼルスでもよく見かける「Sign Spinner」と呼ばれる人たちが大声を挙げながら看板回しを見せています。

町中のいたるところで見かけたのがこの"Lime-S"と呼ばれる電動スクーター。予めアプリをダウンロードしてクレジットカード情報登録済のスマートフォンを使えばその辺に乗り捨ててあるスクーターを「拾って」自由に乗り回すことができます。奥にスターウォーズのキャラクターが映り込んでいますがこれもご愛嬌ということでご容赦ください。

街角の案内地図。指差している「コロナド島」はサンディエゴ湾の太平洋と隔する「天の橋立て」的な半島です。


米国でも最も有名なリゾート地の一つCoronado Beachがあります。ベイ・ブルース、マリリン・モンロー、ルーズベルト大統領といた米国の歴々として有名人がここでバカンスを楽しんだそうです。

この場所に白井先生がサンディエゴ留学時代の大学院の同僚であるDr. Peter Friedman氏とその奥様のPenny Cohenさんに車で連れていってもらいました。そして浜辺のレストランで食事をご一緒させて頂きました。その時に撮った記念写真は焼けに赤みが強く写っていますが、これがその時の色合いそのものです。

なぜならこんなに豪華な夕焼け空だったからです。(河端研究科長のご撮影の写真)<ここをクリックして写真を拡大>
Peterさんは現在専門学校で化学の講師をするかたわら、Hemotech Innovation>というベンチャー企業の社長さんだそうです。生体成分の何かと反応するとすぐに凝固する化合物をつくったらしく、手術の際の止血などに利用できる製品の開発に精力的に取り組んでいるようです。Pennyさんの本職は、子供たちの吃音を治すスピーチセラピストですが、塾長の腸内細菌叢と子供の自閉症が関係ありそうだという論文の話に凄く興味を持たれたようでした。


翌日訪問したのはサンディエゴの町中から北に約20キロほどの隣町、La Jolla (「ラホヤ」と発音)に所在するカルフォルニア大学サンディエゴ校,UCSD、です。学生数はネブラスカ大学の約2倍の4万人。でもこの日は学期間休暇プラス日曜日が重なって学生さんは皆無でしたが、

とにかく医学部のある建物群に向かいました。

なぜならば、ここにポスドクとして頑張っている白井先生の教え子の林大輝君いるからです。「写真館51 」でもご紹介しましたが彼は現在米国では屈指の生化学者である Prof. Ed Dennis の教室で研究を続けています。一行は彼のラボの見学をさせて頂きました(お休み中にすみませんでした)。


この両サイドが彼の研究のためのベンチスペース。うらやましスペースです。

かなり専門的な描写となりますが、質量検出器を連結し、特定の質量のみをフラグメント化させて検出するLC/MS/MSも独り占め状態。これもうらやましい限りです。林君は目下、リン脂質加水分解酵素であるPhospholipase A2の基質特異性を解明することを目的に、Lipidomicsの技術を用いたin vitroの実験や酵素-基質間の結合シミュレーションを用いて研究を行っているそうです。そすることで、それぞれの酵素がどのようにヒトの神経や代謝疾患に寄与しているのか等の知見が得られ、その疾患を予防あるいは改善する戦略の一助になるそうです。

林君の居室の窓からは大学キャンパスの芝生と大きなユーカリの木々、そして真っ青なカリフォルニアの空が望めました。この景色と佇まい、塾長がかつてオーストラリアのクイーンズランド大学の大学院生時代に接していたものとそっくりでした。塾長はとても懐かしい気分、「あの時に戻りたい・・・」と思った次第です。林君、なにはともあれ体には十分気をつけて素晴らしい研究をしてください。


ラボ見学後、一行は林君の車に乗せられて10分たらずでLa Jollaの海岸へ。この高級住宅街地区に住まわれているProf. Dennisのご自宅で彼と彼の奥様と和やかにしばし歓談した後、

海岸沿いにあるレストラン 「Marine Room」 にて出張最後の晩餐をいたしました。このレストランは太平洋に沈む太陽を眺めながら食事ができるとても粋なスポットですが現地でもこの時間帯に海側の席の予約をとるのが大変のようです。が、Prof. Dennisの御陰でこのような記念写真がとれる席で夕日を楽しむことができました。

塾長が自分の席から撮った1枚です。(クリックすると拡大)これが今回の出張でピカイチの写真となりました。アメリカの皆様に感謝!翌日はこの太陽の沈むところあたりに無事に帰国いたしました。