施設環境学研究室

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施設環境学研究室の研究概要

私たちの研究室では,地表ダム,地下ダム,頭首工,水路など, 農業水利構造物の設計・調査・維持・管理に関わる研究について, 取り組んでいます.関連して,コンクリートの材料特性, 廃棄物の3R,地盤環境汚染などの課題に取り組んでいます. 農業水利構造物を支える地盤に関わる問題として, 地質構造の浸透特性や強度特性に関する理論を構築するとともに, 室内実験やフィールド実験を通じて現象を捉え,その有効性を検証しています. 農業基盤を支える水利構造物の災害を回避し,環境と調和のとれた施設設計を実現するため, また安定した食料生産環境の一翼を担うため,日々研究に邁進しています.

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地盤環境の維持や修復に関する問題では, ラボ・フィールドレベルでの物質輸送実験や数値シミュレーション, ならびに,人工知能技術・画像解析技術を駆使して有害化学物質による土壌・地下水汚染の 現象解明と環境リスク評価等に関する基礎的・応用的研究を進めています. また, 地下ダムの設計手法に関する研究, 地下ダム貯留湖における溶質輸送挙動の解明や止水壁越流現象のダイナミックスについて, 実験的・数値解析的に研究を進めています.

循環型地域環境の創成に向けた環境に優しい土木材料の研究開発では, 生分解性樹脂コンクリートという新しい土木材料の開発をするとともに, 劣化メカニズムを明らかにし,仮設資材の寿命管理を可能にすることを目指しています. また,骨材資源の枯渇問題に着目し, これまで廃棄されてきた砕石ズリをコンクリート骨材として有効利用することを 目標に各種実験に取り組んでいます. 水と土は食料生産のみならず生命の活動に不可欠です. 持続可能な農業活動を目指して研究を遂行しています. 以下に,代表的な研究内容をご紹介します.

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1. 地下ダムの設計手法・機能診断手法の確立

沖縄本島や奄美群島の島しょ群の中には, 豊富な降水量があるにも関わらず,地表ダム建設に向かない平坦な地形であることから, 恒常的な水不足に悩まされています. 小規模ため池やわずかな地下水を利用して農業活動を営む地域における 不安定な水利用や水不足の解消,農業用水や生活用水の水源確保のため, 地下ダム事業が展開されています. 地下ダムは,地下水脈を人工の止水壁による堰き止めて, 安定貯水を図る水利構造物であり,宮古島や伊是名島,喜界島などの 地域に十数基の農業用地下ダムが稼働しています. 現在は,宮古島にて保良地下ダム,喜界島にて喜界第二地下ダムを 新規に建設する過程にあります. 一方で,止水壁による地下水の堰き止めによるダム貯水湖の水質への影響は 学術的に明確になっていません.また, 長期にわたって稼働する地下ダムの機能を診断する手法はなく, ダム機能の効率的・効果的な健全性評価の構築が強く望まれています. これらの点を踏まえて, 模型実験やフィールド実験,人工知能の開発に精力的に取り組んでいます. 右の写真は,喜界島(鹿児島県)の地下ダムサイトに設営している 実験フィールドです.食料自給率,離島振興,持続可能な農業など 多くのキーワードを含む研究テーマです.


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2. 地下水中における汚染物質挙動の定量化研究

河川や湖沼に存在する地表水に比べると,地下水は地理的・季節的に利用可能な水量が安定しており, 農業用水をはじめとした様々な用途に利用されています. 水資源としての有効性の反面,地下水は動きが遅く, ひとたび汚染されると浄化に多大な時間と手間が必要となるため,汚染に対しては脆弱です. このため,地下水を汚染させないよう努めることはもちろんのことですが, 地下水中に汚染物質が流入してしまった場合にどのような挙動を示すのかを理解しておくことも, 人への健康リスクや汚染浄化対策を検討する上で重要なことです. 地下水が存在する自然地盤は場所によって地質的な特徴が変化するため, この影響を受けて,汚染物質は複雑な挙動を示します. 一方,この現象は地下で起こっているため,実際のフィールドでの観測は簡単ではなく, 定量的な観測や評価に対しては発展途上の段階にあります. 当研究室では,この複雑な汚染物質の挙動を理解するため, 室内での模型実験と数値シミュレーション, フィールド実験の3つのアプローチを連携することで研究を進めています.


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3. 水溶性汚染物質輸送の数値解析手法の開発

地下水環境中を移動する水溶性物質(イオン類など)の輸送挙動,言い換えると, 移流分散現象は地下水の流向・流速や化学反応の度合いなど多くの因子(パラメータ) の影響を受けて時々刻々と存在位置が変動しています. 現象に関わるすべてのパラメータを測定すること, 何らかの実験を通じて定量化することは 物理的に,また,経済的に難しいため,数値シミュレーションは現象を捉える 強力なツールになります. 汚染物質の運動を表す偏微分方程式や 確率微分方程式を数値的に解く技法を開発することによって, 移流分散現象の解明に取り組んでいます. また,地下水修復対策への応用, 物質輸送パラメータの推定, 揚水井戸の影響範囲の可視化などに開発した数値解析手法を適用しています. 左のアニメーションは,地下水中を移動する汚染物質の挙動のイメージです. 地下空間の様子は直接的な観測ができませんから, 現象を可視化することは現象の解明に向けた重要なステップと言えます. 数値シミュレーションだからこそ覗くことのできる世界もあります.


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4. ダムの漏水量を予測する人工知能(AI)の創生

農林水産省直轄の農業用ダムは189基(地下ダム14基は除く)あり, 食料自給率の向上や地域農業を支える基幹施設として, 安定的に農業用水を確保・供給する役割を担っています. 持続的な食料生産を確保するためには, 貯水機能を有効かつ長期的に発揮する工種の考案,計画・設計上の工夫, 維持管理の工夫・配慮を必要としつつ, 環境問題に対しても十分対応できる柔軟さが必要になります. 農業用ダムの2/3以上は供用から20年を経過しており, ダムの健全性を診断し,機能劣化を予防しつつ, 状況によっては治療を施すことになります. とても難しいのは,ダムの異常シグナルを早期に探知し, 改変・改修を裏付ける根拠を明確にすることです.

右の写真は,鹿児島県にある徳之島ダム(ロックフィルダム,堤高56.3m,堤頂長266.9m)です. ダムを維持管理する上で重要な観測データは, (1) ダム堤体の変位量, (2) 貯水池からの浸透流によりダムを持ち上げようとする揚圧力, (3) 漏水量(ダム堤体を通じて浸透してくる水量, 浅い基礎部分を浸透してくる水量,左右岸地山からの地下水の総量)です. 当研究室では, 貯水位や降水量の観測情報に基づいて, ダム漏水量を予測できる人工知能(AI)を開発しています. 高度な技術と経験を必要とするダムの維持管理に人工知能(AI)を導入することで, 地震や豪雨,経年劣化による異常発生時のシグナル発信, 貯水位管理,避難伝達に貢献することを目指しています. 機械学習,ディープラーニング,技術継承,防災減災などのキーワードを 含む研究テーマです.


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5. 砕石副産物の有効利用に関する研究

施設環境学研究室では, コンクリートを中心として,循環型地域環境の創成に向けた廃棄物の有効利用について研究し ています.また,国土強靭化,環境配慮, 持続可能性,SDGsをキーワードとして, これらを達成できる土木材料の開発を精力的に進めています.

人工骨材である砕石や砕砂を製造する際,大量の砕石副産物が発生します. 現在,大部分が埋立廃棄されていますが,このままでは処分場の逼迫を招くため, 砕石副産物の有効利用が強く望まれています. 砕石副産物は,天然の鉱物由来であり無害である(有機物・重金属を含まない)といった 特徴を有しており,安定的かつ一定品質で副産される点は, 土木材料として大きなアドバンテージになることが考えられます. このような点を踏まえ,有限な資源を無駄にしないために,砕石副産物に対し, 土質工学的なアプローチやコンクリート工学的なアプローチなど 分野の垣根を超えた様々な研究を行っています.


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6. 高性能コンクリートの研究開発

ローマ帝国時代にもコンクリートと類似した建築材料(古代コンクリート)が広く 使用されていました.何千年もの長い時を経て,コンクリートはアップデートされ, 今なお私たちの生活を支えています.当研究室では, 植物の健全な生育を可能にするポーラスコンクリートや生分解性機能を有するコンクリートの研究開発に 取り組んでいます.

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右の写真は,生分解性樹脂コンクリートの写真です. コンクリートができあがった時点(0か月)と時間経過した時点(10か月)を比べると, 体積が小さくなっている様子がわかります. コンクリート=強い,を瞬間的に保ちつつ, 時間とともに消えていく(生分解されていく)コンクリートの使い道は? 従来の概念を覆す研究に取り組んでみませんか?



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7. アンチクラックコンクリートの配合設計の確立

コンクリートは強度が高く,成形の幅が広いことから,世界で最も利用されている建設材料です. その用途は道路やパイプライン,ダム,一般建築物など多岐に渡ります. コンクリートは水,セメント,骨材,混和材料から構成され, それぞれの配合によって性能が大きく変化します. そのため,コンクリートを使う目的によって適切な配合設計は重要な課題です. 当研究室では,コンクリートの劣化の一種であるひび割れを低減するために, 保湿剤や膨張材,短繊維を用いたアンチクラックコンクリートの配合設計方法の検討を進めています.

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コンクリートは乾燥すると,コンクリート中の水分の逸散に伴う体積収縮を引き起こし, ひび割れの原因となります.そこで, 保湿剤としてハンドクリームの原料である尿素を用いて乾燥を抑制し, 体積収縮を低減する方法を模索しています. 左の写真は,ひずみゲージとデータロガーを用いて収縮ひずみを計測している様子です. 24時間に一回,91日間の計測を実施しています. 実験室内での成果に留まらず, 現場適応できるアンチクラックコンクリートの開発を目指して研究を進めています.


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上記のテーマ以外にも, 以下のような研究に取り組んでいます.

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