Research

われわれの身の回りにある自動車などの構造物は金属材料,高分子材料,ガラスなどの無機材料で構成されており,各材料の物性を最大限に活かすための部材最適化が行われています. 特に,機械構造物や医療用インプラント・デバイスでは,構造維持のため,特殊環境での使用に耐える部材であることが必須となります. そのため,模擬環境下での材料特性を高精度で評価し,材料の最適設計にフィードバックすることが各種構造物の性能アップに繋がります. 本研究分野では,材料の内部構造を原子サイズオーダーからマイクロメートルオーダーにわたるマルチスケールの材料組織情報を構造物の高性能化に活かす研究, さらには衝撃荷重下や生体内環境などの特殊環境をシミュレートする実験を通じて,構造材料の機械的性質や構造変化を理解するための研究を行っています.

 

先端医療用バイオマテリアルの材料設計とプロトタイプデバイス創製に関する研究

金属材料はその優れた強度および靭性から種々の医療用デバイス,特に,事故や疾患により治療が必要となった生体組織の支持および固定用のデバイスに使用されています. 例えば,強度,耐食性,生体親和性の高いチタンは,組織固定用のクリップ,骨接合プレートや人工股関節などのデバイスへと適用されています. さらなるインプラント使用者のQuality of Life向上を目的として,生体内での優れた機械的性質だけではなく, 生体内分解性や生体組織再建促進機能などの“プラスアルファ”の機能を有する医療用材料の創製が求められています. 「医療用材料」という表記から特殊な研究対象であるかのように思われがちですが,これらの材料は生体を支える構造材料の一種であり, 研究過程は自動車用材料などの,機械構造材料に対する取り組みと何ら変わることはありません. この研究課題では,種々のプロセスを駆使した材料の構造および微細組織制御による高機能化や, 第一原理計算や有限要素解析などの計算シミュレーションの援用による各種性能発現メカニズムの解明に取り組んでいます.

以下に示した研究テーマの一部は, 工学研究科付属研究センターの一つである 「医療デバイス創製医工学研究センター」における研究プロジェクトや全学の基幹研究推進組織である 「未来医工学研究開発センター」における活動の一環として取り組んでいます.

 

(1) 生体内分解性を示す医療用材料設計およびプロトタイプデバイス創製

クリップ,骨折用デバイスなど一部のデバイスは,生体組織が修復された後には不要となります. ヒトの生体組織と大きく異なる諸性質を示すこれらのデバイスが治癒後も体内に存置されると,場合によってはアレルギー反応や炎症の原因となります. このような課題を解決するものとして,時間の経過と共に生体内で分解され,体外に排出される生体内分解性デバイスが最近注目されています. マグネシウムおよび亜鉛や鉄合金は,生体構成元素の一つであることから,安全性が高い材料として大きな期待を集めています. 各種デバイスの構造材料として適用するためには,マルチスケールでの内部組織制御が必要不可欠です. 実験および計算の両面から,材料の変形メカニズムおよびミクロ組織形成メカニズムの解明に取り組みます. 得られた知見をもとに,要求性能を有するモデル材料を創製し,プロトタイプデバイスを試作します. また,生体内での医療用インプラントの分解性および耐食性は,インプラント・デバイスの寿命を左右することから, 生体内分解速度に対する添加元素や結晶組織の影響を解明する研究にも取り組んでいます.

 

 

(2) 副効用を示すインプラント創製に向けた医療用複合材料の創製に関する基礎研究

強度および靭性に優れた金属と,骨形成能を示すリン酸カルシウムなどの生体活性セラミックスや生体内分解性, 抗菌性を示すポリ乳酸などの高分子材料の複合化により,炎症抑制や生体組織再建の迅速化などの副効用を示す材料の創製を目指します. また,複合化と金属材料の微細組織制御を同時に達成しうる新規プロセスの開発にも取り組みます.

 

 

軽量構造用金属材料の高性能化に関する研究

昨今の省資源・省エネルギーや低炭素社会実現に向けた社会的要請により,自動車や航空機などの輸送機では軽くて,強く,リサイクル性を有する材料が切望されています. 要求性能を満足するためには,必要最小限の有効な添加元素を活用し,最適構造を造り込むことが重要となります. この研究課題では,第一原理計算の援用による元素添加効果の推定,計算科学に基づくモデル材料創製,温度と変形速度を制御可能な材料試験機を活用した高精度な変形応答解析, 計算シミュレーションの援用による変形メカニズムの解明に取り組んでいます.

 

(1) 金属材料の高性能化およびナノスケール組織制御への挑戦

これまでの常識では,もろい材料と認識されてきたマグネシウムも,マルチスケールで内部組織を制御することにより, ねばり強く,常温で成形可能となる材料に生まれ変わることを様々な材料創製研究を通じて解明しています. この研究テーマでは,高エネルギー付与によるナノ結晶金属材料の創製,電子ビーム蒸着による高性能皮膜の創製, 各種構造材料が示す破壊現象を高速変形の可視化実験を通じて解明する研究などに取り組んでいます. なお,研究の一部は各種メーカーや国立研究開発法人との連携により,将来の実用化を見据えた基礎研究として推進しています.

 

 

主な専用研究設備

主な共同研究機関