Research
われわれの身の回りにある自動車などの構造物は金属材料,高分子材料,ガラスなどの無機材料で構成されており,各材料の物性を最大限に活かすための部材最適化が行われています. 特に,機械構造物や医療用インプラント・デバイスでは,構造維持のため,特殊環境での使用に耐える部材であることが必須となります. そのため,模擬環境下での材料特性を高精度で評価し,材料の最適設計にフィードバックすることが各種構造物の性能アップに繋がります. 本研究分野では,材料の内部構造を原子サイズオーダーからマイクロメートルオーダーまで解析する手法の高度化研究や,マルチスケールの材料組織情報を構造物の高性能化に活かす研究, さらには衝撃荷重下や生体内環境などの特殊環境をシミュレートする実験を通じて,構造材料の機械的性質や構造変化を理解するための研究を行っています.

軽量構造用金属材料の高性能化に関する研究
昨今の省資源・省エネルギーや低炭素社会実現に向けた社会的要請により,自動車や航空機などの輸送機では軽くて,強く,リサイクル性を有する材料が切望されています. 要求性能を満足するためには,必要最小限の有効な添加元素を活用し,最適構造を造り込むことが重要となります. この研究課題では,第一原理計算の援用による元素添加効果の推定,計算科学に基づくモデル材料創製, 温度と変形速度を制御可能な材料試験機を活用した高精度な変形応答解析,計算シミュレーションの援用による変形メカニズムの解明に取り組んでいます.
(1) 高速輸送機へ活用するための軽金属材料の高性能化
これまでの常識では,もろい材料と認識されてきたマグネシウムも,マルチスケールで内部組織を制御することにより,ねばり強く, 常温で成形可能となる材料に生まれ変わることを様々な材料創製研究を通じて解明しています. なお,研究の一部は車両メーカーや国立研究開発法人との連携により,将来の実用化を見据えた基礎研究として推進しています. また,次世代新幹線の構造材料開発に貢献する研究も行っています.
(2) ナノスケール組織制御への挑戦
高エネルギー付与によるナノ結晶金属材料の創製,電子ビーム蒸着による高性能皮膜の創製,高エントロピー合金の内部組織制御による高性能化, 高速変形の可視化による破壊現象の解明などのテーマに取り組んでいます.
先端医療用バイオマテリアルの材料設計とプロトタイプデバイス創製に関する研究

金属材料はその優れた強度および延性から種々の医療用材料として使用されています. 特に,事故や疾患により治療が必要となった生体組織の支持および固定用のデバイスに適用されています. 例えば,チタン合金は強度,耐食性,生体親和性が高く,組織固定用のクリップ,骨接合プレートや人工股関節などのデバイスへ適用されています. 一方で,生体組織が修復された後には人工デバイスは不要となります. 治癒後も体内に存置されたデバイスは,ヒトの生体組織と大きく異なる諸性質を示すことから, CTやMRIによる撮像に支障を生じるだけではなく, 場合によってはアレルギー反応や炎症の原因となります. このような課題を解決し,インプラント使用者のQOL(Quality of Life)を向上するには,時間の経過と共に生体内で分解され,体外に排出される生体内分解性デバイスが最近注目されています. 金属の中でもマグネシウムおよび亜鉛は,生体構成元素の一つであることから,安全性が高い材料として大きな期待を集めています. 「医療用材料」と表記すると特殊な研究対象であるかのように思いがちですが,これらの材料は生体を支える「構造材料」の一種であり, その研究過程は,上述の輸送機器用構造材料に対する取り組みと何ら変わることはありません. 用途として求められる付加機能として,生体内での分解性を制御することが重要となるものの,基本的な研究課題は先述の構造材料と同様になります.
(1) 材料設計およびプロトタイプデバイスの創製
各種デバイスの構造材料として適用するためには,マルチスケールでの内部組織制御が必要不可欠です. 実験および計算の両面から,材料の変形メカニズムおよびミクロ組織形成メカニズムの解明に取り組みます. 得られた知見をもとに,要求性能を有するモデル材料を創製し,プロトタイプデバイスを試作します.
(2) インプラントの長寿命化に関する基礎研究

生体内での医療用インプラントの分解性は,インプラント・デバイスの寿命を左右することから,生体内分解速度に対する添加元素や結晶組織の影響を解明する研究に取り組んでいます. また,インプラント・デバイスに繰り返し荷重が作用する場合には,デバイスの分解が促進されるおそれがあるため,体内環境での疲労特性を理解し,改善するための基礎研究を推進しています.
以上に示した研究テーマの一部は, 工学研究科付属研究センターの一つである 「医療デバイス創製医工学研究センター」における研究プロジェクトや全学の基幹研究推進組織である 「未来医工学研究開発センター」における活動の一環として取り組んでいます.
主な専用研究設備
- 卓上万能材料試験機(2台)
- ホプキンソン棒法衝撃圧縮試験機
- 衝撃引張試験機
- 衝撃三点曲げ試験機
- 微小硬度計
- 走査型電子顕微鏡(SEM)/後方散乱X線回折装置(EBSD)
- 光学顕微鏡
- 自動研磨機
- TEM試料作製装置
- 精密切断機
- CO2インキュベーター(4台)
- 電気化学測定装置(2台)
- 電磁式小型疲労試験機(生体模擬環境試験用)
- 小型ワークステーション(120コア:2台,8コア:4台)
- 素材創製プロセス試験機(押出機,圧延機)
- ガスフロー電気炉(2台)
- 大気電気炉
- 高温用電気炉
- 電子ビーム蒸着装置 など
主な共同研究機関
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)
- 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)
- 神戸大学医学研究科 肝胆膵外科学分野
- 神戸大学医学研究科 腎泌尿器科学分野
- 神戸大学医学研究科 呼吸器外科分野
- 神戸大学医学研究科 放射線腫瘍科
- 東北大学医学研究科 形成外科学分野
- 東北大学歯学研究科
- 大阪産業技術研究所 など