図-基部陸上植物ゼニゴケ(Marchantia polymorpha L.)  コケ植物苔類の代表的な種。雌雄異株で、8本の常染色体と1本の性染色体をもつ。生活史の大半が単相(n)世代である。葉状体の中央脈上に杯状体を形成し、無性芽で盛んに繁殖する。野外では、春から秋にかけて造卵器および造精器を形成し、有性生殖を行う。
苔類ゼニゴケとは  ゼニゴケ(Marchantia polymorpha L.)は、世界中に分布し、人家の周辺で最も普通に見られるコケ植物の1種です。コケ植物は、タイ類、セン類、ツノゴケ類の3つに分類され、ゼニゴケはタイ類ゼニゴケ科に属します。ゼニゴケが属するタイ類はコケ植物の中でも最も初期に分岐し、陸上植物の基部に位置するとされています。
 陸上植物は約5億年前に水中から陸上へと進出したと考えられています。陸上は水中にくらべ気温や湿度の変化が大きく、紫外線も降り注ぐ過酷な環境です。植物は、どのように過酷な陸上の環境に適応していったのでしょうか?陸上植物進化の基部に位置するゼニゴケは、植物の陸上進出や体制の変遷を理解する上で、進化上絶妙な位置にあるといえます。
 ゼニゴケは進化的に重要な位置づけにあるため、現在、米国エネルギー省Joint Genome Instituteを中心として、全ゲノム解析プロジェクトが進行中です。もともとゼニゴケは、生活環の大半を半数体(n)で過ごすことに加え、雌雄異株で交配が可能なこと、培養速度が早いことなど、実験モデルとしての大きな可能性を秘めていました。近年、我々は実験材料としてのゼニゴケに着目し、「アグロバクテリウムを介した簡便かつ高効率な形質転換系」や「相同組換えに基づくジーンターゲティング技術」等、数々の実験系を開発して来ました。多細胞生物でありながら酵母のような強力な分子遺伝学の実験系を持つ、優れたモデル生物として世界から注目されつつあります。詳しくは右下の参考論文と右のリンクを参照してください。
ゼニゴケを用いた我々の研究について  我々の研究の中心テーマは、「植物の形づくりの分子機構と進化」です。ここ20年ほどの、モデル被子植物ーシロイヌナズナを用いた分子遺伝学的アプローチにより、被子植物における発生・形態形成の分子機構に関する理解が飛躍的に高まりました。根、茎、葉そして花といった器官の形づくりに関わる遺伝子が単離され、オーキシンやジベレリンといった植物ホルモンの作用機序も分子レベルで明らかになりつつあります。しかし現世の被子植物がもつ制御機構は、植物の進化の過程でどのように獲得され、変化していったのか?といった問題は、ほとんど解明されていません。
 陸上植物は、胚を持たない多細胞緑藻から進化したと考えられています。植物の陸上進出とほぼ同時期に、多細胞の胚を持つものの配偶体(n)世代を優占とする植物(現世のコケ植物と維管束植物の共通祖先)が出現し、しばらくして胞子体(2n)世代を優占となった維管束植物が現れました。このように植物は進化の過程で体制を大きく変えてきました。植物の体制を考えると、胞子体(2n)世代の形づくりの仕組みは、胞子体(2n)世代が優占となったシダ植物以降で獲得されていったように考えられます。しかしながら近年、様々な植物種のゲノム情報が解読される中で、被子植物(維管束植物)とコケ植物との間で遺伝子コンテンツにそれほど大きな違いがないことが明らかになりつつあります。被子植物とは体制が大きく異なるとされてきたコケ植物を材料に、その形づくりの仕組みを分子レベルで解析することで、植物に普遍的に存在する制御機構が見えてくると考えています。コケ植物の中でも苔類ゼニゴケをモデルとし、ゲノム情報解析に基づく分子遺伝学・細胞生物学・生化学の手法を用いた解析を行います。

  • 京大・河内研 ゼニゴケを材料にした植物研究の拠点。京都大学大学院生命科学研究科の河内孝之先生が主催する研究室。本研究室を主催するの石崎の出身研究室である。
  • ゼニゴケGenomeプロジェクト 米国エネルギー省JGIによるゼニゴケ全ゲノム解読プロジェクトの説明
  • コミュニケーションサイト 登録制です。京大の河内孝之先生に一声かけてから登録をお願いします。