2023年11月20日(月)神戸大学人文学研究科 B135(小ホール)
講演 :西本優樹(南山大学)
「集団の不正な行為に直接関与しなかった構成員はいかなる意味で責任を負うのか」
グループや組織、共同体、国家などの集団が不正な行為を行った場合、問題の行為に直接関与しなかった構成員もまた、何らかの責任を問われることがある。例えば、企業が地域住民へ深刻な危害を与える活動を行ったとき、ある社員は行為の時点では問題の企業に所属していなかったかもしれないが、その後に組織の構成員として、問題の行為への説明を求められたり、企業としての謝罪や補償に関与したりする場合がある。
ではこのとき、当該の社員は、どのような責任をどのような意味で負っているのか。本報告では、英語圏の集団責任論を参照しながら、全員の責任(罪)、集団的行為者、転嫁可能な負担責任や役割責任といった主題に照らす仕方で、「集団の不正な行為に直接関与しなかった構成員の責任」を検討する。さらにその上で、応答の不発、過剰な責任の引き受け、加害者/被害者となること、といった近年関連領域で提起される論点にも触れる仕方で、様々な仕方で社会的存在であるわれわれが関わるだろう集団の責任をめぐる議論の現在地を探ってみたい。
講演 :川崎優(九州大学)
「生殖の選択における非同一性問題の解決策の検討」川崎優(九州大学)
元来、生命倫理学の分野では、ある選択について道徳的に評価するときに、「自由」や「危害」の観点から、その評価を試みる方法が主流である。しかし、子どもをもつという選択(特に、障害のある子どもをもつという選択)について、これらの観点から評価しようとすると、私たちはある困難に直面することとなる。それが、「非同一性問題(the non-identity problem)」である。1986年にデレク・パーフィット(Derek Parfit)が、非同一性問題の存在を指摘して以来、この理論上の哲学的問題を解決するための様々な方策が講じられてきた。本発表では、非同一性問題を解決するアプローチについて検討することを目的とする。非同一性問題とはそもそもどのような問題なのか、この問題に対してこれまでどのような解決策が講じられてきたのかを確認するために議論の整理を行い、現状よりよいと考えられるアプローチの模索を行う。