2021年3月26日 プレスリリース

ArCS II国際法制度課題からブリーフィングペーパー・シリーズ第3号「日本の北極域関与に関する評価と今後の展望」と題するポリシーブリーフが発行されました。

ブリーフィングペーパー・シリーズ
(画像をクリックするとPDFがダウンロードできます)。

国際法制度課題では、ArCSⅡにおける研究成果を広く社会に還元することを目的として「ブリーフィングペーパー・シリーズ」を発行しています。ブリーフィングペーパー・シリーズの中で、日本及び関係各国の北極政策立案実施に資するような情報や政策オプションを提示することを目的としたものを「ポリシーブリーフ」として公表しており、関係ステークホールダーが関心を寄せる課題を国際法政策的視点から簡潔平易に解説しています。今回、そのポリシーブリーフとしては最初となる「日本の北極域関与に関する評価と今後の展望:ArCSの成果を踏まえた若手研究者からの示唆」を公表しました。このポリシーブリーフは、北極域研究推進プロジェクト(ArCS, 2015-20年)の下で国際法政策研究を実施したベルギー、日本、米国の若手研究者が、同プロジェクトにおける北極域への日本の関与の変化について考察したものです。

ArCSプロジェクト発足以降における日本の北極評議会(AC)への関与および2015年10月に公表された「我が国の北極政策」の実施状況を評価し、後継のArCSⅡプロジェクト期間(2020-25年)における日本の取り組みについて示唆を与えています。とりわけ、ACの下部機関に対する戦略的な関与や、北極先住民族との連携強化を通じたACの持続可能な開発作業部会(SDWG)へのより実質的な関与の必要性などを指摘しています。


日本のACへの関与については、ArCS プロジェクトがその柱として実施した「専門家派遣」の性質を考察しています。日本の研究者をACの作業部会、タスクフォース、専門家部会などの下部機関の会合に専門家として派遣したことで、日本の作業部会会合におけるプレゼンスは増加した一方で、各下部機関への出席が研究者の専門性や関心に依拠しているところがあり、国としての一貫した戦略に基づく対応が課題であると分析しています。このことを踏まえ、ArCS IIの下での示唆としては、日本は国内ステークホールダー(政府関係者、省庁、研究者、社会科学者を含む科学専門家など)のACへの関与をより効果的にするための戦略を策定するべきあると指摘しています。また、「我が国の北極政策」に関して、日本は北極海航路の開発や国際海事機関(IMO)におけるガイドライン、極海コード、中央北極海無規制漁業防止協定などの交渉に参加し、国内実施していることから、北極域における法の支配の実現とハードローとソフトローを実施することに意欲的であると評価しています。そして、今後、日本が得意とする科学協力分野において北極域における国際協力を推進するため、ArCS IIでは北極に関する科学を政策に統合し、国際的な北極政策と国内の北極政策の相乗効果を生み出すことが効果的であると指摘しています。最後に「ArCS IIの下での日本への期待」として、2020年6月に始動したArCSⅡプロジェクトへの示唆を纏めています。

なお、このポリシーブリーフは、ArCSⅡ国際法制度課題 研究分担者・協力者を含む4名の若手研究者による以下の国際共著論文を要約したものです。

Romain Chuffart, Sakiko Hataya, Osamu Inagaki, and Lindsay Arthur, “Assessing Japan’s Arctic Engagement during the ArCS Project (2015–2020),” Yearbook of Polar Law, Volume 12, 2020. 328–348. https://brill.com/view/journals/yplo/12/1/article-p328_20.xml

著者紹介:

ロマン・シュファール(Romain Chuffart)

英・ダラム大学法学部博士後期課程。2018年10月から2019年3月まで、ArCS事業の下で採用された神戸大学極域極力研究センター(PCRC)学術研究員。

幡谷咲子(はたや さきこ)

神戸大学国際協力研究科博士後期課程。日本学術振興会特別研究員 (DC1)。2018 年度 ArCS 若手研究者海外派遣事業にて北極評議会事務局(ノルウェー)訪問。2021年3月より、笹川平和財団海洋政策研究所研究員。

稲垣 治(いながき おさむ)

神戸大学大学院国際協力研究科PCRC研究員。2015年度 ArCS 若手研究者海外派遣事業にてアラスカ大学フェアバンクス校を訪問。2016年6月から2018年3月まで、ArCS事業の下で採用された神戸大学PCRC特命助教。

リンジィー・アーサー(Lindsay Arthur)

アイスランド教育科学文化省の北極専門官、アクレイリ大学(アイスランド)修士課程在学中。2016年6月から9月まで、ArCS事業の下で採用された神戸大学PCRC学術研究員。



<関連情報>
ArCS II国際法制度課題
 < https://www.nipr.ac.jp/arcs2/goals/subject04-01/ >
過去のブリーフィングペーパー・シリーズ
 ・第2号 ArCS2 Int'l Law BPS 02 J FS March 2021
 ・第1号 ArCS2 Int'l Law BPS 01 E FS February 2021