2022年1月31日 プレスリリース

ArCS II国際法制度課題ブリーフィングペーパー・シリーズ第4号「日本・中国・韓国の北極政策の比較:法の支配・国際協力・ビジネス・先住民族への取り組み」(ファクトシート)が発行されました。

ブリーフィングペーパー・シリーズ
(画像をクリックするとPDFがダウンロードできます)。

国際法制度課題では、ArCS Ⅱにおける研究成果を広く社会に還元することを目的として「ブリーフィングペーパー・シリーズ」(BPS)を2020年度から発行しています。今回の第4号はファクトシートで、2015年に発表された日本の北極政策の特徴を、同じ東アジア諸国で北極評議会(Arctic Council)オブサーバー国である、中国及び韓国の北極政策と比較検討しながら分析しています。日本の北極政策の改訂・更新が想定される中で、同じ北東アジアの有力国であり非北極圏国である日中韓3か国の北極政策の内容面について、政府関連文書および学術文献を用いて具体的に分析しておくことは重要です。

このファクトシートでは、まず日中韓3か国が非北極圏国である自らを北極ガバナンスに関与すべきステークホルダーとして位置づけ、北極域における活動を正当化するための基本的なアプローチにつき、「地理的接続性」と「科学に基づく地球物理学的接続性」の2つの観点から分析しています。次に、3か国の北極政策の中身につき、①法の支配、②国際協力、③経済開発、④先住民族への取り組みという4つの視点から分析を進めます。日中韓3か国が共に強調している「国際協力」については、その内容を「ガバナンスと政策に関わる協力」と「科学的協力」に分け、各国が北極政策において国際協力を重視する分野について指摘します。また、日中韓による北極での経済的関心については、北極海航路の利用・北極資源(生物資源・非生物資源)開発に対する力点の置き方の違いを明らかにしています。3か国の北極政策における北極先住民族の位置づけについては、日本の北極政策が北極先住民族を権利主体として位置づけている点に注目しています。以上の分析の結果、日中韓の北極政策は、国際協力や北極生物資源開発については共通点が多いものの、法の支配と国際法の役割、北極におけるビジネスチャンスのとらえ方、北極先住民族への政策的関与の仕方においてはかなり違いがあるとの見方を示しています。

本号の成果はまた、ArCS Ⅱの重要課題でもある若手人材育成に応えるものです。このファクトシートの著者、メディ・デルヴォヴィッチ氏は、現在フィンランド・ラップランド大学北極センター客員研究員ですが、2020年5月から1年間、アイスランド・アクレイリ大学極域法プログラムと神戸大学大学院国際協力研究科の修士論文共同指導制度に基づいて、柴田センター長の下で修士論文を執筆していました。このファクトシートは、この修士論文の一部を柴田センター長と共に改訂し、日本の読者向けに執筆されたものです。

この度、第4号の公開に合わせて、「ArCS Ⅱ International Law Briefing Paper Series」にISSN登録(2436-8784)を行いました。また、すべての既刊号を神戸大学学術成果リポジトリ(Kernelカーネル)にて公開し、DOIを付与することにしました。よりアクセスしやすく、学術成果として永続的活用ができるようになりました。

過去のBPSは以下のページからまとめてご参照いただけます。
https://www.research.kobe-u.ac.jp/gsics-pcrc/ja/arctic/press_release/j_briefing_papers.html