2022年4月4日 プレスリリース

第14回極域法国際シンポジウムでの課題間連携特別セッション「極域における海洋酸性化」を基にブリーフィングペーパー・シリーズ第7号が米国の若手研究者との共著により発刊されました。

ブリーフィングペーパー・シリーズ
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ArCS Ⅱ国際法制度課題ブリーフィングペーパー・シリーズ(BPS)第7号“Ocean Acidification in the Arctic – Scientific and Governance Responses(北極域の海洋酸性化–科学的およびガバナンスの対応)”が発行されました。この第7号は、2021年11月に開催された第14回極域法国際シンポジウム(PLS)にて設置されたArCS Ⅱ課題間連携特別セッション「人新世における極域ガバナンス:海洋酸性化を題材に」に基づいて、PLSフェローとして採用された大学院生、ジェン・エヴァンス氏(米国デンバー大学)が、ArCS II国際法制度課題代表の柴田教授と共にファクトシートとして編纂したものです。

極域法国際シンポジウムは若手研究者の育成もミッションの一つとしており、ArCS II国際法制度課題では、PLSを通して世界の有望な若手研究者を発掘し、日本の若手研究者との交流を促しています。その一環として、世界の若手研究者、大学院生をPLSフェローとして採用し、シンポジウムの企画や、セッションでの研究報告の機会を与えています。さらに優秀な者には、研究を発展させて論文の執筆につながるような支援もしています。今回のファクトシートは、そのようなArCS II国際法制度課題の若手育成活動の成果の一つでもあります。

このファクトシートでは、海洋酸性化問題について国際法学的研究を続けるティム・スティーヴンズ教授 (オーストラリア・シドニー大学)と、極域での海洋酸性化のメカニズムを探る観測と研究を続ける原田尚美氏 (海洋研究開発機構)によるPLSでの研究報告に基づき、最新の科学調査の状況とそれに対する極域ガバナンスの現状について解説しています。

本号では、科学調査によって、北極圏は地球全体の海表面に占める割合が3%に過ぎないにもかかわらず海洋酸性化が顕著に進行している地域であることが明らかになっており、そのような現状を把握するための科学的な評価制度および海洋酸性化を抑えるためのガバナンスについて、地域、国家、そしてグローバルなレベルでの現状について纏めています。科学調査については、北極評議会の作業部会の一つである北極圏監視評価プログラム(AMAP)が北極地域レベルでの活動をリードしており、国家レベルでは、米国、カナダ、ノルウェーなどの北極圏国、あるいは日本などの非北極圏国においても観測・研究が行われており、海洋酸性化に対する科学的な関心は高まってはいるものの、ガバナンスによる対応を検討する上でも、海洋酸性化の複雑な科学的プロセスの更なる解明が必要であると分析しています。

また、海洋酸性化の進行を抑えるためのガバナンスの現状としては、地域レベルでは北極評議会が海洋酸性化を地域海洋環境に対する脅威と捉え、加盟国に対して影響を監視することを要請しており、国家レベルでは、ノルウェー、カナダ、アイスランドなどは、海洋酸性化に対応するための具体的政策を実施するなど、特別の関心をもって取り組んでいる国もあるようです。一方で、国連がSDGs 14.3の中で海洋酸性化の影響を最小限にすることを目標としているにも係わらず、グローバルレベルでは、2021年に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)でも海洋酸性化はそれ自体として取り上げられることはなく、気候変動問題の周辺的な課題として扱われています。そのため本稿では、北極域での海洋酸性化に対して効果的に対処するには、グローバルなレベルでさらに明確で具体的な取り組みが必要であると結論づけています。

著者紹介:

ジェン・エヴァンス

米国デンバー大学ジョゼフ・コーベル国際研究大学院博士後期課程在学中。北極研究所(ワシントンDC)研究員、第14回極域法国際シンポジウム・フェロー。

柴田 明穂(しばた あきほ)

神戸大学・教授(国際法)、極域協力研究センター(PCRC)センター長。ArCS II国際法制度課題研究代表。



<関連情報>
■ ArCS II国際法制度課題ブリーフィングペーパー・シリーズ
 < https://www.research.kobe-u.ac.jp/gsics-pcrc/ja/arctic/press_release/j_briefing_papers.html >