2022年9月5日 プレスリリース

北極科学外交に関するウェビナーシリーズの報告書が公表されました。

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2022年2月から3月にかけて北極域研究加速プロジェクト(ArCS II)とハーバード大学が共催した北極科学外交ウェビナーの報告書がこのたび公表されました。このウェビナーには、ArCS II国際法制度課題と社会文化課題から3名の若手研究者がラポルトゥールとして参画し、本報告書の共著者として貢献しています。この報告書は、北極科学協力を強化していくための具体的な提言を含んだ示唆に富む内容になっています。無料でダウンロード頂けます。

このウェビナーシリーズは、北極科学協力を強化することを目的として、日本の外務省の資金援助の下、ハーバード大学のPaul Berkman教授、APECS初代代表で元SCAR事務局長であるJenny Baeseman博士、そしてArCS II国際法制度課題研究代表の柴田明穂教授が企画段階から携わり、実現に至ったものです。計3回にわたり実施されたウェビナーでは、それぞれ「北極科学とは何か?」、「どのように科学はデータを政策決定のための証拠に変換できるか?」、「北極システムへの理解を高めるためにはどのような国際的な取組が必要か?」といったテーマの下に、錚々たる北極科学のエキスパートが基調講演を行い、それに引き続き、世界49カ国から集まった参加者がブレークアウトセッションに分かれて活発に議論しました。

ArCS II からは、プロジェクトディレクターの榎本浩之先生が第3回北極科学大臣会合(ASM3)に関する基調講演を行いました。またArCS IIの国際法制度課題から稲垣治博士(神戸大学)ジア・マダニ博士(神戸大学)、またArCS IIの社会文化課題から佐藤重吾さん(東北大学)が、ハーバード大学のケネディスクールの大学院生と共に、ラポルトゥールとして準備段階から参加し、ウェビナーでは議論の記録をとり、本報告書の共著者として執筆にも関わりました。

ウェビナーの開催期間中には、ロシアによるウクライナ侵攻が発生しました。ロシアを国際的な対話から除外していく動きが強まる中で、この事態にどのような対応をするか議論をした結果、このようなタイミングだからこそ包摂的な対話が必要だという認識に基づき、ロシア人基調講演者やロシア人参加者と共に議論を継続することを選択しました。こうしたロシアとの対話継続の重要性は、柴田教授が共著者となっているNature誌(4月28日)のCorrespondence記事でも表明されています。

この報告書には、3回のウェビナーの議論の要約や全体会合の議事録などが収録されています。ウェビナーでの議論を、一言で要約すれば、国際北極科学協力を強化するためには、北極圏国と非北極圏国の科学者、先住民族、若手研究者、政策決定者、研究費助成機関など関連する利害関係者の間での包摂的な対話の継続が必要不可欠だということです。とりわけ、北極先住民族と研究費(ファンディング)の問題は、繰り返し話題に上りました。科学者の科学的知識と北極先住民族の伝統的知識は、相互補完的であり、新たな知識の創出のために粘り強く協力していかなければならないこと、北極先住民族、小規模研究機関、若手研究者が北極科学により実質的に関与することができるように研究費申請の方法や評価に関する改善点なども提案されました。また日本をはじめとする非北極国が北極科学に関与していくことの重要性も確認されています。本報告書が、日本における北極科学への関心や取り組みの強化のために役立てば、幸いです。



<関連情報>
■ 報告書本文ダウンロード
<https://scidiplo.org/wp-content/uploads/2022/08/Science-Diplomacy-Action_Synthesis-6_Webinar-Series-Enhancing-International-Scientific-Cooperation_31JUL22-4.pdf >
■ 北極科学外交に関するウェビナーシリーズ概要及びYouTube動画
<https://unitar.org/sustainable-development-goals/multilateral-diplomacy/our-portfolio/enhancing-international-scientific-cooperation-arctic-science-and-technology-advice-ministries >