2023年3月3日 プレスリリース

ArCS II国際法制度課題から、北極ガバナンスにおける「先住民族」と「地域社会」の区別に関するリサーチブリーフが発行されました。

ブリーフィングペーパー・シリーズ
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国際法制度課題がArCS IIにおける研究成果を広く社会に還元することを目的として発行している「ブリーフィングペーパー・シリーズ」(BPS)において、第8号J「北極ガバナンスにおける『先住民族』と『地域社会』の区別―イヌイット極域評議会2020年政策白書を素材として―」(リサーチブリーフ)が発行されました。BPSには「ポリシーブリーフ」「ファクトシート」「リサーチブリーフ」の3種類がありますが、今回初めて、国際法制度課題の下での研究内容を一般向けに概説するリサーチブリーフとして、マギル大学法学研究科博士課程の鈴木海斗氏が執筆を担当しました。

第8号では、最近、北極ガバナンスの文脈で議論になることが多い、「先住民族(indigenous peoples)」と「地域社会(local communities)」の概念の区別について、鈴木氏のこれまでの研究に基づいて、平易に概説されています。鈴木氏は、分析の題材としてまずイヌイット極域評議会が2020年に公表した政策白書を取り上げ、イヌイットをはじめとする「先住民族」と「地域社会」と呼ばれるアクターは、国際社会においてどのように理解されているのか、そしてその違いを反映して、両者は国際社会で各々どのような主張を行うことができるのか、といった点を、国際人権法・国際環境法分野における国際条約・文書から明らかにしています。

現状の国際社会においては、先住民族の土地、天然資源や文化に対する権利の主張、並びにその実現に向けた各国及び国際社会による義務の履行が制度化されてきたのに対して、地域社会の権利はほとんど議論されずにとどまっています。これは、「先住民族」の定義が明らかにされていないにも関わらず、イヌイットが自らをその中に含まれるものとして認識していることにも表れています。リサーチブリーフでは、この点について、国際人権規約や国連先住民族権利宣言に規定された人権及び先住民族の権利から分析を行なっています。

他方で、生物多様性や気候変動などの国際環境保護の文脈において、先住民族と並んで地域社会の権利保護が必要とされつつあることを確認する必要があります。このことは、環境の変化による影響を受けやすい地域の共同体による主張を、公的機関による意思決定の参加において、考慮に入れる必要性が認識されてきたことによります。リサーチブリーフにおける考察では、そのような要請と現状における限界が、北極ガバナンスの最も重要なフォーラムである北極評議会において、先住民族が優先的に保護されていることに表れていることを指摘しています。




著者紹介:

鈴木海斗(すずき・かいと)

マギル大学法学研究科博士課程在籍、ArCS II国際法制度課題研究協力者。
研究関心は、国際人権法・国際環境法における先住民族、地域社会及び小農の権利。

<関連情報>
イヌイット極域評議会2020年「地域社会」に関する政策文書
 <https://hh30e7.p3cdn1.secureserver.net/wp-content/uploads/FINAL-ICC-Policy-Paper-on-matter-of-local-communities-2.pdf">
■ ArCS II国際法制度課題ブリーフィングペーパー・シリーズ
 < https://www.research.kobe-u.ac.jp/gsics-pcrc/ja/arctic/press_release/j_briefing_papers.html>