神戸周辺を含む瀬戸内海の沿岸は,上で述べたような区分ではもちろん温帯域に入りますが,より詳しく見てみるとそこに生育する海藻類の種類は距離的に近い太平洋沿岸の紀伊半島(南紀)などよりはむしろ中部日本海の沿岸または東北地方の太平洋沿岸と似ています.このことは岡山,広島など瀬戸内海の中央部の沿岸でより顕著で,その理由は紀伊半島や四国の南岸が暖流である黒潮の影響を直接受けるため周年を通 して水温が高いのに対して,瀬戸内海は黒潮が直接入って来ないために,特に冬の水温が下がるためと考えられます.すなわち紀伊半島などを特徴づける暖海性の種類が瀬戸内海沿岸では冬を越せないために,瀬戸内海には分布を広げられないためと考えられます. 垂直分布 海藻類は太陽光のエネルギーを吸収して利用する光合成によって生活しています.このため,十分な量 の光が得られる海面近くの浅い岩場(浅場)などが海藻類にとって好適な生活の場になります.また,浅場は波浪や潮流による水の動きによって呼吸や光合成に必要な酸素(O2)や二酸化炭素(CO2)の交換,栄養塩の吸収,老廃物の排出などが効率的に行え,さらに光を遮る泥などの付着も避けられるという利点もあります.しかしその一方で浅場は雨水や河川から流れこむ淡水の影響,潮汐による干出でおこる乾燥,強い波浪によるはぎとり,著しい温度変化,有害な紫外線の影響など,海藻類の生活にとって好ましくない条件もともなう場です.なかでも潮汐による周期的な干出がおこる潮間帯は,潮位 にあわせて移動することのできない海藻類にとっては,きわめて短時間のうちに生活環境が激変する厳しい場です.すなわち,満潮により海水中にあるときは,さまざまな点で好ましい環境ですが,干潮による干出時には,乾燥や極端な高温や低温により致死的なダメージを被ることもあります.このような環境条件は潮間帯の中でもその高さによって大きく異なります.潮間帯の上部では下部より干出時間が長く,このため乾燥や温度変化に対する耐性がより大きい海藻類のみが生育できます.また,このような物理・化学的な環境だけでなく,ここに生活する動物などによる摂食や競合などの影響も著しいものがあります.このため,潮間帯における高さや岩場の向きや傾斜によって,その場所で生育(優占)する海藻類の種類が異なり,ふつう帯状の分布(ゾーン)が形成されます.神戸周辺では潮汐の幅(満潮と干潮の時の水面 の高さの差)は最も大きいときで1.5-2 m 程度ですが,この範囲だけでもいくつかのはっきりした帯状の分布を見ることができます.またこのような帯状の分布は低潮時にも干出しない,より深いところ(漸深帯)でも見ることができます. |
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