研究内容

  1. DNA損傷の発生を感知して修復するメカニズム
  2. 生体内においてDNA修復を制御する分子機構
  3. DNA損傷に対する細胞応答を制御するシグナル伝達経路
  4. DNA損傷によるDNA複製の停滞を回避する機構

2.生体内においてDNA修復を制御する分子機構

XPCタンパク質はさまざまなDNA損傷を見つけて修復を開始することができますが、一部の損傷についてはXPCタンパク質による損傷認識を助ける特別なメカニズムが働いています。UV損傷DNA結合タンパク質(UV-DDB)はDDB1とDDB2という2種類のタンパク質からなる複合体で、DDB2タンパク質はXP原因遺伝子産物の一つ(XPE)にあたります。UV-DDBはその名の通り、紫外線によって生じたDNA損傷を見つけて強く結合し、そこにXPCタンパク質を積極的に呼び込む働きがあります。紫外線による損傷のうち、特にシクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)はDNAの構造にあまり歪みを起こさないためXPCタンパク質によって認識されづらく、UV-DDBがないと効率よく修復できないことがわかっています。

このようにXPCタンパク質はUV-DDBによって紫外線損傷部位に呼び込まれますが、損傷に強力に結合したUV-DDBが邪魔になってそのままでは修復が先に進みません。私たちは、UV-DDBに結合するCUL4ユビキチンリガーゼという因子が、ここで重要な役割を果たすことを明らかにしました。ユビキチン化は、76個のアミノ酸からなるユビキチンという小さなタンパク質が、他のタンパク質に枝分かれ状に結合する翻訳後修飾の一種です。ユビキチン化には、ユビキチンが1個だけ結合する場合(モノユビキチン化)と、ユビキチンにさらにユビキチンが結合して鎖状に連なる場合(ポリユビキチン化)があります。ユビキチンが結合するとタンパク質の性質が変化したり、一部のポリユビキチン化はタンパク質の分解を引き起こす目印となることが知られています。UV-DDBがDNA損傷に結合するとユビキチン化を触媒する酵素であるCUL4ユビキチンリガーゼが活性化され、DDB2とXPCタンパク質をポリユビキチン化することがわかりました(図1)。DDB2タンパク質がポリユビキチン化されるとUV-DDBはDNA損傷に結合する能力を失うのに対して、XPCタンパク質はポリユビキチン化されてもDNAに結合し続けられるため、これによってUV-DDBからXPCタンパク質へ損傷の受け渡しが行われるのです。私たちが日常的に受ける紫外線によって発生したDNA損傷は、このように巧妙なメカニズムを駆使して効率よく修復されています。

DDB2やXPCをはじめ、ヌクレオチド除去修復に関わるタンパク質に緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合したものを細胞で発現させ、紫外線を細胞核の局所にピンポイント照射すると、タンパク質が損傷部位に急速に集積するのをリアルタイムで観察することができます(図2)。実際のゲノムDNAは一定の間隔でヒストンというタンパク質に巻きついており、この線維がさらに何重にも折りたたまれた状態で細胞内に収められています。DNA損傷が発生してその修復を開始するためには、その部分のDNAを一時的にほどいてやらないと、損傷の認識やその後の修復に関わるタンパク質が損傷にアクセスすることができないと予想されます。損傷を見つけ出すタンパク質の細胞内での動きや、DNAの高次構造(クロマチン構造)の制御がどのように行われているのか、詳しく解明することが今後の重要な研究テーマです。

図1 紫外線損傷の修復におけるユビキチン化の役割(動画)

CUL4ユビキチンリガーゼによってDDB2とXPCタンパク質がポリユビキチン化されることで、UV-DDBからXPCタンパク質へのDNA損傷の受け渡しが行われます。その後、ユビキチン化されたDDB2タンパク質はプロテアソームにより分解されますが、XPCタンパク質は脱ユビキチン化を経て元の状態に戻ります。

図2 局所紫外線照射に伴うヌクレオチド除去修復因子の集積(動画)

GFPを融合したXPCタンパク質を安定に発現する細胞核の局所に紫外線をスポット照射すると、損傷を修復するために急速に集まってくるタンパク質を可視化することができます。動画は波長250 nmの紫外線を照射後1分間のGFP蛍光の挙動を示したものです。

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