研究内容

研究テーマ1

地域分散バイオマスのための小型バイオガスユニットの開発とエネルギー利用

小型バイオガスユニット

メタン発酵は有機系廃棄物からバイオガスに変換する微生物プロセスであり,近年の再生可能エネルギー利用の導入拡大からも注目されている。しかしながら,小規模畜産施設等に点在する未利用少量バイオマスを活用するには,従来のプラントタイプの大型施設ではなくバイオマス量に見合った小型装置が必要である。そこで,容積が従来の1/10 以下の小型装置(バイオガスユニット)を試作し,発酵性能の評価や社会実装に必要な技術課題について検討を行っている。現在,乳製品加工施設等を備えた6 次産業型酪農場(神戸市)におけるバイオガスユニットの現地試験を実施し,バイオガスエネルギーの地産地消システムの開発を行っている。

研究テーマ2

メタン発酵による抗生物質耐性菌リスク制御手法の確立

メタン生成菌

畜産業において抗生物質は,家畜の疾病治療と成長促進を目的に使用されている。その一方,抗生物質の使用は耐性菌の発現を引き起こし,家畜のみならずヒトの感染症治療に大きな影響を及ぼす。畜産バイオマスにおいても耐性菌が検出され,関連リスクの低減が必要である。本研究では、メタン発酵による抗生物質耐性菌制御と残留抗生物質の分解手法の確立を目指している

研究テーマ3

薬剤耐性菌対策としての動物用抗菌剤の磁気分離と電気化学反応による無害化

畜産業由来と推定される動物用抗菌剤(抗生物質および合成抗菌薬)が,日本国内の河川水から検出されている。抗菌剤の環境拡散は薬剤耐性菌の出現を引き起こす。薬剤耐性菌の社会的損失は大きく,G7 主要国首脳会議での大臣級会議における議題にも挙げられている。環境拡散を防止するには,排出源である畜産施設から排出される動物用抗菌剤の分離・無害化技術が必要である。本研究では,多くの抗菌剤が持つ金属イオンと結合するという特異的な性質を利用した磁気力による抗菌剤の選択的な分離と,電気化学反応による無害化を目指している。

研究テーマ4

ステンレス表面のナノ制御による乳成分の高品位洗浄

乳製品加工プロセスにおいて,サニタリーステンレスパイプは多用されている。しかし,内部表面にタンパク質や脂肪を含む乳成分が付着しやすく,放置するとバイオフィルムを形成し微生物汚染による食中毒の原因となり得る。乳製品の安全性確保のためにパイプ内表面の洗浄が必須であるが,洗浄は容易ではなく洗剤使用による環境負荷が大きい。特にカルシウムや乳アレルゲンと関連する乳タンパク質が残留しやすく,洗剤に頼らない確実な洗浄法が強く望まれている。本研究では,ナノスケールレベルの超平滑表面を持つステンレスパイプを用いて,カルシウムや乳タンパク質の洗浄性向上を目指している。

研究テーマ5

微生物と膜分離を利用したバイオマスのエネルギー変換

嫌気性処理装置

農産業や食品加工などでは多くの未利用バイオマスが排出される。このようなバイオマスの利活用技術として、微生物を用いたエネルギー変換が注目されている。なかでもメタン発酵は嫌気性微生物の力により廃棄物系バイオマスを処理しながら、エネルギーとしてバイオガスを回収できる有用な技術である。一方で、メタン発酵は処理時間が遅いことや、廃棄物発生量の変動に対応が困難という弱点がある。本研究では、膜ろ過技術を応用した新しいバイオリアクターにより、メタン発酵の処理時間を短縮できるプロセスの確立を目指す。

研究テーマ6

メタン発酵消化液の高品質化による栄養塩の循環利用

膜モジュールによる消化液の改質
消化液を利用した植物栽培

メタン発酵では、消化液とよばれる液分が残渣として排出される。消化液はそのまま排水処理するのではなく、窒素やリンに富む性質を生かして肥料利用されることが資源循環型の地域づくりにおいて求められる。本研究では、物理化学的手法および硝酸化細菌を利用した生物学的手法により、消化液の高品質化を目指す。理化学機器による分析や、植物の栽培試験、藻類の培養実験などにより肥料特性を調査することで、高品質化効果を評価する。地域内でのバイオマス循環、エネルギー循環に貢献できるような、新たなバイオマス転換プロセスの確立を目標とする。

研究テーマ7

農環境保全のための促進酸化法とバイオレメディーエションを併用した廃棄物処分場の化学物質管理

微生物による浸出水浄化システム

私たちの生活で排出された廃棄物は適正に処理され、最終的には処分場という施設に埋められる。処分場では降雨などにより浸出水と呼ばれる排水が流出するが、発がん性の恐れがある1,4-dioxaneなどの有害な化学物質が含まれる場合がある。特に処分場は農地に近接していることが多く、農環境への悪影響が懸念される。本研究ではオゾンや電気化学的手法といった促進酸化法(AOPs:Advanced Oxidation Processes)とバイオレメディーエションなどの生物処理を併用したプロセスにより、浸出水の処理を検討する。省エネルギー型のAOPs、および自然界に存在する有害物質を分解する微生物を活性化する手法などを確立することで、有害化学物質の適正管理を目指す。