2021年3月19日 プレスリリース

第13回極域法国際シンポジウムにおいて、ArCS II国際法制度課題として取り組むべき北極国際法政策研究の課題と今後の方向性が示されました!

13 PLSホームページより。354人の参加への謝意と
2021年第14回会合での再会を呼びかけています。
極域法国際シンポジウム(Polar Law Symposium=PLS)は、世界で唯一、極域の国際法政策的課題につき学術的に議論する年次大会であり、今回その13回の歴史上初めてアジアで、ArCS II国際法制度課題の研究代表者である柴田明穂・神戸大学教授が主催者となって、11月9日から30日まで完全オンラインで開催されました。 研究企画委員会には、ArCS IIプロジェクト・ディレクターの榎本浩之教授や、国際法制度課題のサブ課題代表者である西本健太郎・国立極地研究所客員教授、小坂田裕子・中京大学教授などが参画し、企画段階からArCS II研究への貢献が意識されていました(最終的なプログラムはこちらから参照できます)。 また、PLSの特徴でもあり、ArCS IIでも奨励されている若手研究者の養成につき、PLSフェローシップを設けて、世界中の若手研究者に企画や研究報告に関与してもらいました。特に、アイヌ出身の若手研究者で、ノルウェー北極大学で2020年2月に博士号を取得した鵜澤加那子氏(ArCS II国際法制度課題研究協力者)による報告「Peoples of the North: Ainu in Japan and Sami in Norway」が行われたことは、特筆すべき成果です。北極における先住民族研究が、日本のアイヌ民族の地位向上に向けた施策に示唆を与えることが明らかになりました。


北極プラスチック問題公開講演会のWebinarの様子。
自然科学と国際法学が連携して研究し、持続可能な北極社会の構築に日本がどう貢献できるかは、ArCS IIの重要課題です。社会科学と自然科学の連携、すなわち社理連携研究を北極に適用して新たな知見を得ようとする取り組みは、柴田教授と榎本教授が共同主催者となって立ち上げたパネル「Policy-Law-Science Nexus in Polar Regions」の下で開催された4つのセミナーで実現しました。特に、IPCCが2019年に公表した「海洋及び雪氷圏特別報告書」の起草過程に関わった法学者であるSandra Cassotta・デンマーク・オールブルグ大学准教授と榎本教授による報告とその後の質疑応答では、科学的知見が法的枠組・手続の中で、科学的客観性と各国政府の政治的思惑の微妙なバランスを保ちながら、報告書に反映されていくプロセスが明らかになりました。また、北極評議会(Arctic Council=AC)につき、下部機関であり科学的議論が行われる作業部会と、政策的議論が行われる上級北極担当者会合(SAO)や閣僚会合との関係が、これまでのボトムアップからトップダウンに変容しつつあるとするGosia Smieszek・ノルウェー北極大学研究員の報告も、作業部会を通してACの議論に貢献しようとする日本にとって、重要な示唆を与えました。 柴田教授は、アジアの若手研究者2名と共に、2018年に発効しその実施が始まった北極科学協力協定につき、主に日本、中国、韓国の研究者の視点から考察するセミナーで研究報告をしました。同協定の実施フォーラムである締約国会合(COP)に関する情報収集が課題であることが分かりました。研究分担者の小林友彦・小樽商科大学教授は、2名の若手研究者と共に、科学技術の発展が北極域に適用がある国際法の形成や実施に如何に影響を与えているかにつき検討しました。


社理連携研究の「種」は、Seita Romppanen・イースタンフィンランド大学准教授(国際環境法)による「プラスチックにまみれた北極:北極プラスチック汚染に法はいかに対処すべきか」と題する公開講演会によって蒔かれました。このイベントは、ArCS II国際法制度課題と海洋課題(代表:渡邉英嗣・JAMSTEC副主任研究員)の共催で行われ、コメンテイターとして笹川平和財団海洋政策研究所の豊島淳子研究員(ArCS II海洋課題研究協力者)が登壇し、2020年夏の観測船「みらい」での海洋プラスチック観測について紹介されました。この講演会を契機として、阿部紀恵・神戸大学PCRC学術研究員のリーダーシップにて両課題での研究が進み、北極域の海洋プラスチック問題をめぐる現在の科学的知見と、それに対処する国際法の現状につきまとめたファクトシートが発刊されることになりました。

柴田教授が編集代表を務める査読
付き年鑑Yearbook of Polar Law
極域法国際シンポジウムでは、他にも、西本健太郎教授が主催した「北極海洋ガバナンスの将来」と題するパネルの下3つのライブセミナーが開催され、日本の産業界にも関心が高い北極海航路をめぐる法状況、北極海運の持続可能な利活用、北極をめぐる海洋法上の諸問題につき議論され、研究分担者の瀬田真・横浜市立大学准教授、石井由梨佳・防衛大学校准教授が報告を行いました。同様に関心が高い、北極資源の持続可能な開発に関する国際法政策的課題につき、研究分担者の稲垣治・神戸大学研究員、古畑真美・神戸大学特命助教が主催するパネル「北極資源開発と先住民族」で議論が行われました。サブ課題責任者の小坂田教授は、「北極における先住民族の権利」と題するパネルを主催し、シンポ前後も含め3つのオンラインセミナーを開催しました。ArCS II国際法制度課題では、今回の国際シンポジウムで得られた知見や人的ネットワークを活用して、今後、2022年度に北極海洋問題を中心にしたワークショップ、2023年度に北極先住民族の国際法上の権利と北極の持続可能な発展をテーマとしてワークショップを開催する予定です。なお、神戸大学PCRCは、2021年11月に第14回極域法国際シンポジウムを、2年連続で主催することになりました。PLSを活用した更なる北極国際法政策研究の推進が見込まれます。


なお、第13回極域法国際シンポジウムでの研究報告の一部は、査読を経て、Yearbook of Polar Lawという学術年鑑に掲載される予定です。シンポで報告した研究分担者も、論文を投稿したと聞いております。英文研究論文として、ArCS IIの研究成果が広く世界の極域法学術コミュニティーに知られることになるでしょう。柴田教授は、第12巻(2020年号)からYearbook of Polar Lawの共同編集代表を務めております。




<関連情報>
第13回極域法国際シンポジウムを英文で紹介した記事
Mami FURUHATA, Current Developments in Arctic Law
<https://lauda.ulapland.fi/handle/10024/64489>
第13回極域法国際シンポジウム公式HP
<https://2020polarlawsymposium.org>