ArCS II国際法制度課題から日本の北極政策のレビューに関するブリーフィングペーパー・シリーズの最終号が発行されました。

国際法制度課題がArCS IIにおける研究成果を広く社会に還元することを目的として発行してきた「ブリーフィングペーパー・シリーズ」(BPS)の日本語版最終号となる「我が国の北極政策2015-2025:次の10年への示唆」(第11号)が発行されました(英語版は第12号として後日発行されます)。BPSには「ポリシーブリーフ」「ファクトシート」「リサーチブリーフ」の3種類がありますが、最終号は、日本及び関係各国の北極政策立案実施に資するような情報、政策オプションを提示するポリシーブリーフです。ArCS II国際法制度課題の研究の集大成として、国際法制度課題と国際政治課題の研究者7名が執筆を担当し、国際法制度課題の稲垣治、柴田明穂、西本健太郎が編集代表を務めています。
このポリシーブリーフは、日本が初めて策定した北極政策である『我が国の北極政策』(2015年)以来、約10年間にわたる北極ガバナンスへの日本の関与や貢献を中心に産官学の実行をレビューし、次の10年のための示唆を引き出すことを目的とするものです。発行に至るまでには、半年以上の時間をかけ、多くの方のご協力を頂きました。2024年9月には、フィンランド・ロバニエミのラップランド大学北極センターにおいてワークショップ、またスウェーデン・エステルスンドでの第17回極域法シンポジウムにおいてセミナーを開催し、海外専門家と意見交換を行い(その様子については、過去の記事および下記の関連情報を参照して下さい)、さらに同年11月には日本においてもワークショップを開催して関係者から情報提供やご意見を頂きました。本ポリシーブリーフはこれらを踏まえつつ執筆者の責任の下に発行されています。ご協力頂いた方には改めて御礼を申し上げます。

本ポリシーブリーフは、6つの章から構成されています。第1章「はじめに」に続き、第2章「研究開発を通じた関与」では、科学外交の観点から日本の研究開発を通じた北極ガバナンスへの貢献を評価するとともに、日本の北極評議会やその他の多国間・二国間枠組みへの貢献とその課題を明らかにしています。第3章「法の支配を通じた関与」では、中央北極海漁業協定、先住民族との協働そして環境保護という3つのテーマを取り上げて、法の支配の観点から成果と今後の課題を明らかにしています。第4章「持続可能な利用」では、北極海航路の利活用、資源開発における日本の実践と課題を明らかにするとともに、新たな分野としての観光やブルーエコノミーなどの可能性について検討しています。さらに第5章「北極:パワーバランスの歴史的変化の中で」では、ロシアによるウクライナ侵攻に象徴される地政学的変化が北極の安全保障と北極評議会に与える影響、またそれに対する日本の対応について評価を行っています。
最後の第6章「次の10年への示唆」では、以上の10年の北極政策の実行の分析から引き出された、7つの提言をまとめています。そこでは、日本の北極政策は海洋政策の文脈でのみ捉えることに限界がきており独立し体系的な文書として再構成されるべきこと、日本の研究開発を通じた北極ガバナンスへの貢献は様々な枠組みで多層的に展開されるべきこと、また北極評議会への貢献にあたっては政府関係者、自然科学者、社会科学者がより戦略的に連携すべきこと、などが提言されています。こうした提言が、今後の日本の北極政策の実践、ポストArCS IIの研究活動に役立てば幸いに思います。
編集代表者紹介:
稲垣治 (いながき おさむ)
神戸大学大学院国際協力研究科極域協力研究センター研究員。ArCS II国際法制度課題研究分担者。
柴田明穂 (しばた あきほ)
神戸大学大学院国際協力研究科極域協力研究センターセンター長。ArCS II国際法制度課題研究代表。
西本健太郎 (にしもと けんたろう)
国立極地研究所国際北極環境研究センター教授、東北大学大学院法学研究科教授。ArCS II戦略目標4統括。
■ ロバニエミワークショップでの議論の要約
Fumika Iwama, Osamu Inagaki, Maiko Raita and Medy Dervovic,
“Review of Japan’s Arctic Policy 2015–25: A Report of the Rovaniemi Workshop and the 17th Polar Law Symposium”,
Current Development in Arctic Law, Vol. 12, (2024), pp. 83-89.
< https://lauda.ulapland.fi/handle/10024/66259>
■ ArCS II国際法制度課題ブリーフィングペーパー・シリーズ
< https://www.research.kobe-u.ac.jp/gsics-pcrc/ja/arctic/press_release/j_briefing_papers.html>