イベント・成果報告


2021年7月26日

ArCS II国際法制度課題 第2回研究会「北極科学協力協定の意義再考:第2回実施会合に参加して」をオンラインで開催しました!

2021年6月25日、柴田明穂センター長(国際法制度課題代表者)は、「北極科学協力協定の意義再考:第2回実施会合に参加して」と題して報告を行い、課題メンバーと活発な議論を行いました。(ArCS II専門家派遣報告書はこちらから閲覧できます )。

北極科学協力協定の適用地域
米国国務省ホームページから引用

報告では、本協定を学術的に分析する国際法政策的意義につきまずまとめられ、その後、協定第12条に基づき開催される「協定実施検討会合」の位置づけと第2回会合で議論された2つの実質事項、すなわち同会合の手続規則になり得るTerms of Reference案と違反事例(alleged violations)の通報制度案の議論状況につき紹介がありました。

質疑では、まず第1条(用語及び定義)については、本協定が第三国に権利を与えるものではなく、日本のような非締約国の研究者にとっては締約国の研究機関と手を組まなければ本協定の対象とはならないことを確認した上で、本協定の適用範囲として国家管轄権内と管轄圏外を同一に扱うことの意義と問題点について議論が行われました。ここでは、例えばIGA外から出発して北極海(IGA内)で観測する船については、国の許可は不要であるものの締約国にはIGA内における科学活動を円滑にする義務が生じるため、本規定が非締約国にとっても一定のメリットがあることが確認されました。

そして、本協定とその実施過程における先住民族の関与や位置づけにつき議論が展開しました。先住民族は北極科学協力協定をどのように捉えているか、との質問については、協定内に第9条(伝統的及び地域的な知識)の規定しかないことについては先住民への配慮が十分でなかったとの批判もないわけではないが、先住民の関与が低いと言われる理由には、本協定の性質が科学者に対して便宜を図る努力義務を定める内容であることも関係しているとの説明がありました。それに関連して “Alleged Violation”とは誰による違反を想定しているのか、それが中央政府なのか、それとも(先住民を含む)現地での妨害等も想定しているのかによって規定の意味が変わってくるとの指摘がありました。

次に協定第7条が規定するデータへのアクセスについて、本協定の有意義な効果が期待されるものであり、実施検討会合においても注目されていたことが報告されました。この点につき、データへのアクセスをオープンにする義務と締約国が裁量で制限する権利との対立の可能性について質問がありました。この点については、非締約国である日本にとって重要なのは日本人研究者が北極で得たデータが日本で使えること、そして日本で衛星等を使って得られた北極に関するデータを公開することであり、その両方を確保することによって締約国・非締約国間のオープンアクセスを確保にすることが重要であるとの見解が示されました。

更に、本協定の性質から考えた長期的な展望について議論が及び、この協定が、これまで通り枠組み的な条約として、非政府を主体とする協力関係として続くのか、それとも、政府の関与が強まっていくことも考えられるのか、については、本協定が科学者間・研究機関レベルの協力体制の妨げになってはならないが、研究協力を推進するためのルートはたくさんあった方が良いこと、そして本協定が条約として存在していることに意義があり、本協定っだから実現できる協力関係を強化することが重要であるとの見方が示されました。特に今後は、データへのアクセスを確保することが本協定の存在意義の一つになり得るとの意見がありました。

以上のように、本研究会での活発な質疑によって、北極科学協定の規定には、協定の性質や権利義務の主体と対象範囲について、解釈に幅があることが明らかになりました。非国家主体の協力関係が円滑に進んでいる間は特に問題にはならないとしても、今後、国家主体の関与が強まることがあれば、国際法規範として存在す本協定の規定ぶりが締約国及び非締約国にとって重大な意味を持つことも考えられます。非締約国でありかつ北極科学を積極的に実践している日本としては、北極における開かれた科学活動を推進する立場から、科学協力の具体的な実践を観察しつつ、オブザーバーとして本協定に関する交渉をフォローすることが重要であると思われます。               

(文責:古畑真美)



2021年3月19日

第13回極域法国際シンポジウムにおいて、ArCS II国際法制度課題として取り組むべき北極国際法政策研究の課題と今後の方向性が示されました!

13 PLSホームページより。354人の参加への謝意と
2021年第14回会合での再会を呼びかけています。

極域法国際シンポジウム(Polar Law Symposium=PLS)は、世界で唯一、極域の国際法政策的課題につき学術的に議論する年次大会であり、今回その13回の歴史上 初めてアジアで、ArCS II国際法制度課題の研究代表者である柴田明穂・神戸大学教授が主催者となって、11月9日から30日まで完全オンラインで開催されました。 研究企画委員会には、ArCS IIプロジェクト・ディレクターの榎本浩之教授や、国際法制度課題のサブ課題代表者である西本健太郎・国立極地研究所客員教授、小坂田裕子・中京大学教授などが参画し、企画段階からArCS II研究への貢献が意識されていました(最終的なプログラムはこちらから参照できます )。 また、PLSの特徴でもあり、ArCS IIでも奨励されている若手研究者の養成につき、PLSフェローシップを設けて、世界中の若手研究者に企画や研究報告に関与してもらいました。特に、アイヌ出身の若手研究者で、ノルウェー北極大学で2020年2月に博士号を取得した鵜澤加那子氏(ArCS II国際法制度課題研究協力者)による報告「Peoples of the North: Ainu in Japan and Sami in Norway」が行われたことは、特筆すべき成果です。北極における先住民族研究が、日本のアイヌ民族の地位向上に向けた施策に示唆を与えることが明らかになりました。

自然科学と国際法学が連携して研究し、持続可能な北極社会の構築に日本がどう貢献できるかは、ArCS IIの重要課題です。社会科学と自然科学の連携、すなわち社理連携研究を北極に適用して新たな知見を得ようとする取り組みは、柴田教授と榎本教授が共同主催者となって立ち上げたパネル「Policy-Law-Science Nexus in Polar Regions」の下で開催された4つのセミナーで実現しました。特に、IPCCが2019年に公表した「海洋及び雪氷圏特別報告書」の起草過程に関わった法学者であるSandra Cassotta・デンマーク・オールブルグ大学准教授と榎本教授による報告とその後の質疑応答では、科学的知見が法的枠組・手続の中で、科学的客観性と各国政府の政治的思惑の微妙なバランスを保ちながら、報告書に反映されていくプロセスが明らかになりました。また、北極評議会(Arctic Council=AC)につき、下部機関であり科学的議論が行われる作業部会と、政策的議論が行われる上級北極担当者会合(SAO)や閣僚会合との関係が、これまでのボトムアップからトップダウンに変容しつつあるとするGosia Smieszek・ノルウェー北極大学研究員の報告も、作業部会を通してACの議論に貢献しようとする日本にとって、重要な示唆を与えました。柴田教授は、アジアの若手研究者2名と共に、2018年に発効しその実施が始まった北極科学協力協定につき、主に日本、中国、韓国の研究者の視点から考察するセミナーで研究報告をしました。同協定の実施フォーラムである締約国会合(COP)に関する情報収集が課題であることが分かりました。研究分担者の小林友彦・小樽商科大学教授は、2名の若手研究者と共に、科学技術の発展が北極域に適用がある国際法の形成や実施に如何に影響を与えているかにつき検討しました。

ZOOM Webinar on Arctic plastic problems held live on 26 November.

社理連携研究の「種」は、Seita Romppanen・イースターンフィンランド大学准教授(国際環境法)による「プラスチックにまみれた北極:北極プラスチック汚染に法はいかに対処すべきか」と題する公開講演会によって蒔かれました。このイベントは、ArCS II国際法制度課題と海洋課題(代表:渡邉英嗣・JAMSTEC副主任研究員)の共催で行われ、コメンテイターとして笹川平和財団海洋政策研究所の豊島淳子研究員(ArCS II海洋課題研究協力者)が登壇し、2020年夏の観測船「みらい」での海洋プラスチック観測について紹介されました。この講演会を契機として、阿部紀恵・神戸大学PCRC学術研究員のリーダーシップにて両課題での研究が進み、北極域の海洋プラスチック問題をめぐる現在の科学的知見と、それに対処する国際法の現状につきまとめたファクトシートが発刊されることになりました。

柴田教授が編集代表を務める査読
付き年鑑Yearbook of Polar Law

極域法国際シンポジウムでは、他にも、西本健太郎教授が主催した「北極海洋ガバナンスの将来」と題するパネルの下3つのライブセミナーが開催され、日本の産業界にも関心が高い北極海航路をめぐる法状況、北極海運の持続可能な利活用、北極をめぐる海洋法上の諸問題につき議論され、研究分担者の瀬田真・横浜市立大学准教授、石井由梨佳・防衛大学校准教授が報告を行いました。同様に関心が高い、北極資源の持続可能な開発に関する国際法政策的課題につき、研究分担者の稲垣治・神戸大学研究員、古畑真美・神戸大学特命助教が主催するパネル「北極資源開発と先住民族」で議論が行われました。サブ課題責任者の小坂田教授は、「北極における先住民族の権利」と題するパネルを主催し、シンポ前後も含め3つのオンラインセミナーを開催しました。ArCS II国際法制度課題では、今回の国際シンポジウムで得られた知見や人的ネットワークを活用して、今後、2022年度に北極海洋問題を中心にしたワークショップ、2023年度に北極先住民族の国際法上の権利と北極の持続可能な発展をテーマとしてワークショップを開催する予定です。なお、神戸大学PCRCは、2021年11月に第14回極域法国際シンポジウムを、2年連続で主催することになりました。PLSを活用した更なる北極国際法政策研究の推進が見込まれます。

なお、第13回極域法国際シンポジウムでの研究報告の一部は、査読を経て、Yearbook of Polar Law という学術年鑑に掲載される予定です。シンポで報告した研究分担者も、論文を投稿したと聞いております。英文研究論文として、ArCS IIの研究成果が広く世界の極域法学術コミュニティーに知られることになるでしょう。柴田教授は、第12巻(2020年号)からYearbook of Polar Lawの共同編集代表を務めております。



<関連情報>
第13回極域法国際シンポジウムを英文で紹介した記事
Mami FURUHATA, Current Developments in Arctic Law
<https://lauda.ulapland.fi/handle/10024/64489 >
第13回極域法国際シンポジウム公式HP
<https://2020polarlawsymposium.org >



AY 2019 (April 2019〜March 2020)

2020年3月20日

国際セミナー「北極の共有財、北極評議会、そして北極の先住民族」を開催しました。(2020年3月5日)

本セミナーは、文部科学省北極域研究推進(ArCS)プロジェクト(2015-2019年度)の下で、神戸大学極域協力研究センター(PCRC)を中心に行われてきた北極法政策研究の集大成として開催されました。本セミナーでは、これまでに築いた国際共同研究ネットワークを活かし、ロシア、カナダ、フィンランド、ノルウェー、英国、そして日本から、北極法政策研究の第一人者と若手研究者が集い、北極評議会の展開、北極の海の持続可能な利用、そしてそれらにおける先住民族の関与について研究報告がなされ、討議が行われました。座長は、PCRCセンター長の柴田明穂教授が担いました。

1.北極評議会の展開

まずカナダ・ノーザンブリティッシュコロンビア大学准教授のNatalia Loukacheva氏(2015年4月に神戸大学で開催された最初の北極セミナーの参加者)は、「北極評議会と国連の持続可能な発展目標」と題して、2015年に国連で採択された持続可能な発展目標(SDGs)実現のために北極評議会がどのような取り組みを行ってきたかについて報告しました。北極評議会は、その設立当初からオタワ宣言に謳われる持続可能な発展をその目的として活動してきましたが、2017年のフェアバンクス閣僚宣言で初めてSDGsについて言及するとともに、フィンランド議長下(2017-2019年)ではとりわけ北極動植物相保存(CAFF)作業部会と持続可能な開発(SDWG)作業部会がSDGsの達成のための取り組みを進めました。ところが、トランプ政権下の米国は、SDGsに消極的であるとのことで、2019年ロバニエミ議長声明にもその言及はありませんでした。質疑応答では、持続可能な発展という、もともと南北問題由来の規範的概念が、北極(先進国ばかりのグループ)においてどのような意味を持つかや、その概念自体の変化について議論がなされました。

ロシア・サンクトペテルブルク大学教授で神戸大学客員教授のAlexander Sergunin氏(2016年夏にJSPS招聘研究者としてPCRCに在籍)は、「来るロシア議長下の北極評議会について考える:問題と展望」と題して、2021年から始まるロシア議長国下の北極評議会について報告しました。ロシア議長下で予測されるアジェンダは、アイスランド議長下のそれと大きな変更はなく、持続可能な発展、気候変動、社会的な包摂性とコネクティビティ、Science Diplomacy、教育などになるだろうとのことでした。またロシア政府の重要な方針転換として、非拘束的文書で設立されている北極評議会を条約に基づく国際機構に転換する意図を持たなくなったことが挙げられました。この背景には、BRICSなどの他の条約に基づかないフォーラムが上手く機能していることがあるとのことでした。他方で、北極評議会の小規模な組織改革をロシアは目指すかもしれないとし、その一例として、現在分散している事務局機能の統合が挙げられました。質疑応答では、北極評議会における条約交渉についてのロシアの態度について議論となり、ロシアは、主題によっては北極評議会の下での条約交渉に積極的であると回答がなされました。なお、この報告内容は、PCRC Working Paper Seriesとして公表される予定です。

前PCRC特命助教で現在PCRC研究員の稲垣治氏は、「北極評議会による生態系アプローチの発展」と題して、北極評議会によるこれまでの生態系アプローチの実施とその評価を行いました。生態系アプローチは、法政策的には区域間統合(integration among different jurisdictional areas)と分野間統合(integration among different)を要請する原理と捉えたうえで、北極評議会が、どの程度区域間統合と分野間統合の実現に貢献しているかを評価しました。それによると北極評議会は、生態系アプローチ概念の発展やその科学的側面については多く貢献してきた一方で、区域間統合や分野間統合については、汎北極海洋保護区ネットワークの枠組み(2015年-)や北極海洋協力タスクフォース(2015-19年)を通じて実施が試みられているものの、その効果は限定的であると評価されました。質疑応答では、なぜ生物多様性条約の枠組みに言及しないのか、他に生態系アプローチが成功している地域はあるのか、南極において生態系アプローチが比較的成功しているとされるのはなぜか、などについて質問があり議論が展開されました。

2.北極の海の持続的利用

ノルウェー・ノード大学上級研究員のAndreas Raspotnik氏は「北極におけるブルーエコノミーの管理」と題して、ブルーエコノミーという2010年以降に用いられるようになった新たな概念について報告がなされました。それによればブルーエコノミーとは、漁業、養殖、海上輸送、石油・ガス開発といった海洋に関連する産業の持続的な発展を意味するといいます。報告では、ブルーエコノミーを実現するための戦略などについても触れられ、質疑応答では、持続可能な発展という概念に替わって、ブルーエコノミーという一見似ている新たな概念が用いられるようになっている背景について議論が交わされました。その一つの理解として、持続可能な発展概念がより環境保護に力点を置くようになってきていることを背景として、より経済発展を強調するブルーエコノミーという概念が用いられているのではとの意見がありました。なお、この報告内容は、PCRC Working Paper Seriesとして公表される予定です。

フィンランド・ヘルシンキ大学客員研究員のNikolas Sellheim氏(2017-18年JSPS外国人研究員としてPCRCに在籍)は、「国際捕鯨委員会(IWC)における新たなダイナミズム?:ブルーエコノミー、気候変動および鯨の保全」と題して、これまでの国際捕鯨取締条約(ICRW)の展開におけるブルーエコノミー概念や気候変動の位置付けについて検討しました。そこではICRWは、1982年のいわゆる捕鯨モラトリアム以来、鯨類の保存に傾斜し、ホーエルウォッチング以外の鯨資源の持続可能な利用(ブルーエコノミー)は議論にならず、気候変動に関しても限られた範囲でしか議論されてこなかったことが紹介されました。更に2019年日本がICRWを脱退し、ICRWはその存在意義が問われる状況になっていると評価しました。質疑応答では、日本脱退後のICRWのシナリオや、以上のようなICRWの状況が捕鯨活動を継続している北極先住民族への影響について議論がなされました。

英国・ダラム大学博士課程院生のRomain Chuffart氏(2018年PCRC学術研究員)は、「北極における環境影響評価の調和:持続可能性の達成」と題して、環境影響評価(EIA)が、持続可能な発展を達成する手段となりうるか、また各国の異なるEIAに関する法律の調和が達成可能かについて検討しました。とりわけ北極評議会のSDWG作業部会で作成されてきた非拘束的なEIAガイドラインが、どのような役割を持つか、特に国内法の調和をもたらすことができるかどうかという問題が提示されました。質疑応答では、国内法調和のために非拘束的ガイドラインに替わる方法の有無、国際人権法をEIA強化のために用いる可能性、非拘束的ガイドラインの条約解釈における機能について議論が交わされました。

3.ロシアの北極戦略

Alexander Sergunin教授による講演会「ロシアの北極戦略:国際協力の展望」が、引き続き開催されました。この講演においてSergunin教授は、まずロシアの北極政策は、拡張主義的で軍事力などのハードパワーに頼りがちであるという一般的なステレオタイプに対して、北極において現在ロシア進めているのは、軍備の穏当な近代化であり、攻撃的な軍備の増強に関心があるわけではないと指摘しました。同時にロシアとは、石油・天然ガス開発、北極海航路、極海コード(polar code)の実施、環境保護などの様々な分野で他国との協力可能性があることが強調されました。講演後、PCRCの柴田センター長から、難しい時期に客員教授として来日し1ヵ月の研究滞在をされたことに対する謝意として、Sergunink教授にPCRCの研究成果である書籍Emerging Legal Orders in the Arctic(2019)が手渡されました。


 
   
AY 2018 (April 2018〜March 2019)

2019年1月9日

極域協力研究センター (PCRC) 第 4 回国際シンポジウムを開催しました。(2018年12月17日-18日)

2018年12月17~18日、神戸極域協力研究センター(PCRC)と北極域研究推進プロジェクト(ArCSプロジェクト)はPCRCシンポジウムを共同で開催し、極域法分野を研究する20名以上の著名な研究者及び若手研究者が参加しました(JSPS科研費、公益財団法人 神戸大学六甲台後援会、神戸大学社会システムイノベーションセンター、神戸大学大学院国際協力研究科(GSICS)からの支援による開催)。

第4回国際シンポジウムでは、PCRC組織委員会は、特に持続性の4つの側面である経済・社会・環境・科学の統合に関わる北極資源開発の持続可能性のための国際法に焦点を当てることを決定しました。例年のシンポジウムとは異なり、本年のシンポジウムにはビジネスセクターの実務家や自然科学者を招へいし、報告が行われました。PCRCセミナーは世界中の若手研究者の登竜門となりつつあり、これが今回のシンポジウムへの若手研究者の招へいや研究報告に助成金が支払われている理由となっています。今回のシンポジウムは6人のキーノートスピーカーと6つのセッションで構成されており、ハイレベルな学術的議論を促すとともに、北極における非生物天然資源に関連する持続可能性と国際法につき、スピーカーと参加者双方の議論を促すことを目的とするものでした。

12月17日、シンポジウムは神戸大学国際協力研究科柴田明穂教授(極域協力研究センター長)が理論的枠組を提案するところから始まり、議論の根底にある統合原理としての持続可能性に焦点を当てた講演が行われました。柴田教授は、北極に適用可能な一般規則が多くあると述べ、また学術的課題は北極における鉱物資源開発のための国際法の全体的かつ系統的な理解を確立する統合的な法原則として潜在的な持続可能性を探ることだと主張しました。柴田教授はさらに、現在の北極における鉱物資源開発を取り巻く政治的および社会的文脈、当該地域におけるプロジェクトに関する現在の商業的機会や実行可能性を考慮に入れつつ、人権法や先住民の権利に関する法、国際経済法や投資法ならびに国際環境法を含む、異なる観点に基づく北極鉱物資源開発に関する国際法の現状を正確に特定する必要性を議論しました。

オープニングセッションに続き、アクレイリ大学及びグリーンランド大学のRachael Lorna Johnstone教授が、資源開発における持続可能性とグリーンランドに関する第1セッションにおいて基調講演を行い、グリーンランドにおける国際法の天然資源ガバナンスへの影響について報告をしました。Johnstone教授はグリーンランドにおける主権問題や天然資源の採掘について議論し、グリーンランドが国際法上特殊な位置づけにあると述べました。Johnstone教授によると、グリーンランドは国際法上最も国家のような主体の一つであり、デンマーク内での地位の変化が採掘産業に関連する権限の配分に変化をもたらし、また植民地や先住民の権利の向上、先住民の主権の重視が、天然資源に対する権限に変化をもたらしたとしました。Johnstone教授の基調講演後、グリーンランド大学西北欧研究科修士課程在学中のTukummingiaq Nykjær Olsen女史がパネリストとして報告をしました。Olsen女史は、天然資源管理において先住民の知識を含める必要性があることを個人的及び学問的な理由を交えながら述べました。先住民の歴史、文化、伝統に基づき、Olsen女史は先住民の知識が学術界において理解され、認められる必要があることを強調しました。また、北海道大学低温科学研究所の杉山慎教授は、「グリーンランドにおける自然環境変化とその人間社会への影響」というタイトルで講演し、グリーンランド北西部カナックにおいて行った自身の現地調査の結果について議論を行いました。杉山教授は、現地調査において杉山教授や研究チームがどのように現地コミュニティーに溶け込もうとしたか、そして現地調査の際に先住民の意見、情報、知識を考慮に入れることの重要性について述べました。杉山教授はまた、グリーンランドの氷床は年々減少しており、氷床の減少はグリーンランドのコミュニティーに影響を与えていることから、救済措置が取られなければならないことや、影響を受けているコミュニティーとデータを共有する方法についても触れていました。第1セッションの最後には、北海道大学の高橋美野梨助教が、天然資源の開発から得られる富を如何に享受するか、またグリーンランドにおける持続可能性の政治学について講演を行いました。

午後の第2セッションでは、人間及び社会の観点から見た持続可能性に焦点を当てました。イギリス・ミドルセックス大学のPeter Hough准教授は、イヌイットの文化及び持続可能性について基調講演を行いました。パネリストでフィンランド・ヘルシンキ大学研究員のDorothé Cambou博士は、天然資源に対する永久的主権の限界に関する彼女の研究について講演しました。採掘企業に関係する先住民コミュニティーの権利に対するグリーンランドの義務について、Cambou博士はグリーンランドの人々が、国際法の下で民族自決権を付与されているようにグリーンランドの天然資源に対し主権的権利を行使するが、イヌイットの人々(北グリーンランド)もまた個別の先住民コミュニティーとして特定の権利を有すると結論付けました。彼女は更に、土地や天然資源への小規模の先住民集団の権利もまた、社会的な持続可能性のために守られなければならないとしました。セッションの最後に、中国・上海交通大学凱原法学院博士課程のYu Long氏が、契約責任としての事前の自由なインフォームド・コンセント(FPIC)の実施および先住民の利益と非先住民コミュニティーの利益の調和がどの程度可能かについて議論を展開しました。グリーンランドとカナダを比較しつつ、Long氏はFPIC には採掘企業、先住民コミュニティー、及び国家権力の間での交渉を形式化する合意が存在しうるとしました。彼は、仮に契約法の下、合意が私的文書以上のものとしてみなされるのであれば、合意はより重要な役割を果たすであろうと結論付けました。

シンポジウム初日終了後、講演者と参加者はレセプションにおいて神戸牛や寿司に舌鼓を打ちながら、和やかな雰囲気の中議論を交わしていました。

シンポジウム2日目(12月18日)は、第3セッション「経済/ビジネスの観点から見た持続可能性」から始まりました。北極経済評議会・責任ある資源開発作業部会共同議長・Cowley Maritime Corp.副社長のBruce Harland氏がまず、北極における経済成長やビジネス開拓を促進ための北極経済評議会の役割に焦点を置きながら基調講演を行いました。さらに石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査課(ロシアCIS担当)課長原田大輔氏が、ロシアにおける北極石油・天然ガス開発の最近の加速化について基調講演を行いました。開発の潜在性とともに現行プロジェクトとその課題について議論を行い、特にヤマル LNG とArctic LNG-2に焦点が当てられました。原田氏は北極における炭化水素資源の高い可能性や当該プロジェクト開発の実行可能性ならびに当該地域に対する日本の関心を評価した分析を提示しました。

小樽商科大学の小林友彦教授は、国際経済法の視点から、WTOにおける補助金規則交渉から得た経験につきパネリストとして講演を行いました。小林教授はまた、海運の安全性が、北極域における持続可能な資源開発には不可欠であるとしました。加えて、既存の国際規範は現在のニーズに応えておらず、また政府のサポートが北極海の航行のための大規模船の建設のための技術を発展させるための重要な要素であるとしました。マレーシアDorairaj, Low & Teh法律事務所のKong Soon Lim氏もパネリストとして、北極における国際投資法の概要について述べ、持続可能な開発の原則を考える一方で、規制や潜在的なリスクを最小化し当該域における投資を促進および保護するための北極投資レジームの創設について議論しました。最後のパネリストである中国北欧北極研究センター事務局長Egill Thor Nielsson氏は、特に非生物天然資源開発の文脈における中国と北欧の関係について議論しました。Nielsson氏は、持続可能性が北欧諸国と中国の関係におけるカギとなる要因であるとし、さらもこれは政治、科学、経済開発といった様々な分野での既存の協力関係に基づき強化されるとしました。

シンポジウム最後の第4セッションでは、環境及び科学の観点から見た持続可能性に焦点をあてました。大妻女子大学の木村ひとみ准教授は、北極における国際環境法の役割とグリーンランドとヤマル地方の国内環境法に基調講演の中で触れ、北極における様々な環境法レジームの概要を説明しました。最初のパネリスト、東京海洋大学の大河内美香准教授は、北極における石油・天然ガスの持続可能な開発のための安全管理制度(SMS)の確立について述べました。ヤマル半島の事例を挙げながら、大河内准教授はSMSと健康・環境・安全管理システム(HSEMS)が、国際機関や企業による持続可能な開発のための、最新の環境保護基準や国際的な安全確保を提供するためにきわめて重要であると結論付けました。フィンランド・ラップランド大学北極センターの研究員であるJoëlle C. Klein女史と、PCRCの研究員でフィンランド・ラップランド大学博士課程に在籍している Romain Chuffart氏は、北極における天然資源の持続可能な開発に向けた環境影響評価(EIA)の手続の法的潜在性について述べました。Klein女史は、環境影響評価の調和により、基準となるデータの確立や累積的で長期的な影響の観察、先住民のコミュニティーの参加の明確化ならびに国際人権法の包含することが促されると述べました。第4セッション最後のパネリスト、スペイン・ポンペウファブラ大学博士課程に在籍中のDaria Shvets女史は、持続可能性を通した北極における採掘活動と海底ケーブル敷設の自由の均衡に焦点を当てていました。採掘活動およびケーブル敷設が北極国の大陸棚における不可欠な活動であるというのが、Shvets女史の結論でした。Shvets女史によると、国連海洋法条約にはケーブルの交差について言及が無く、北極評議会の通信インフラに関するタスクフォースの枠組みの中で特定の地域的な規則の創出を議論しました。

最後セッションでは、カナダ・カルガリー大学のNigel Bankes教授が、自国領域内における国家の天然資源開発に対し、国際法はいかに規制することができるのかについて分析を加えるとともに、あらゆる持続可能性に関する要素をまとめました。最後に、北海道大学・北極域研究センターの大西富士夫准教授が持続可能性、科学、政治、そして国際法について国際関係論の視点に基づきまとめを行いました。大西准教授は統合的な法原則の持続可能性や北極における鉱物資源のための国際法の理解を高めることの必要性を述べ、講演を締めくくりました。最後に、柴田教授からスピーカーと参加者、またGSICS の博士・修士課程の学生スタッフの協力により実りのあるシンポジウムが開催できたことに対して感謝の意が示され、シンポジウムは閉会しました。

神戸大学国際協力研究科博士課程1年 幡谷咲子


 

2018年12月17ー18日

第4回神戸大学極域協力研究センター(PCRC)国際シンポジウム
北極資源開発の持続可能性と国際法
International Law for Sustainability in Arctic Resource Development

日 時:2018年12月17日(月)〜18日(火)
場 所:神戸大学六甲台第1キャンパス 社会科学系フロンティア館
言 語:英語(同時通訳はありません)
参加登録:事前参加登録をお願いします(12月3日まで)。
http://www.research.kobe-u.ac.jp/gsics-pcrc/sympo/2018-4th-sympo/program.html
定 員:90名 (※定員になり次第、締め切らせていただきます。)
趣 旨:
  海氷減退に象徴される北極域での環境変化は、他方で北極海航路の利活用、資源開発をはじめとする経済的・商業的機会の増大をも意味します。北極域では、すでに石油・天然ガス・その他鉱物資源の開発が進んでおり、北極鉱物資源開発の課題はどのようにその持続可能性を確保するかに移っています。本シンポジウムは、気候変動の影響に晒され環境的に極めて脆弱で、且つ、先住民を含む約400万人の住民の社会経済基盤と密着した特別な地域としての北極域における鉱物資源開発につき、国連持続可能な開発目標(SDGs)の基本理念である持続可能性(sustainability)と経済・環境・社会面の統合(integration)をキーワードにしながら、具体的な事例として、グリーンランドとロシア連邦ヤマル地方の資源開発を題材として、ルールに基づく北極鉱物資源開発のガバナンスのあり方について議論をします。