JSPS研究拠点形成事業
地球益実現に向けた南極ガバナンス研究 (2025〜2030)
ジェームズ・アンソニー・プレス
タスマニア大学 海洋・南極研究所 客員教授
JSPS研究拠点形成事業
地球益実現に向けた南極ガバナンス研究 (2025〜2030)
この事業では、南極域が現在そして今後100年にわたって直面し続ける2つの危機に、的確に応答できる国際的且つ学際的な南極ガバナンス研究拠点を構築します。2つの危機とは、第1に気候変動を主因とする南極氷床・海氷・海洋・生態系の激変と、そして第2にグローバル・サウスによる「多極化した世界秩序」の主張です。今後の海面上昇の約1/4が南極起因であると言われており、南極ガバナンスのあり方は、今やグローバルな関心事です。こうした危機の本質を地球科学と社会科学とを連携させて明らかにし、それら危機に的確に対応できる南極ガバナンスの強化策を、地球益を実現するという観点から提言します。
具体的な研究トピックとして、(i)南極氷床融解とそれを保全する工学的構想の是非、(ii)コウテイペンギンを含む南極生態系の保全、(iii)平和利用の下での南極科学調査の推進、特に南極科学技術・データのデュアルユーズの問題、(iv)南極由来の遺伝資源の保全と持続的利用、(v)増え続ける南極観光活動の適切な管理を扱います。加えて、この事業では、より根本的、課題横断的、理論的課題として、例えば、「プラネタリー・バウンダリー論」「地球システム法論」「グローバル環境法論」「ガバナンスレジーム論」なども積極的に研究していきます。本事業は100年先の南極ガバナンスを構想しており、今後100年間国際研究交流が継続できるように、若手研究者養成と大学院教育にも力を入れています。
本研究の学術的成果は、新たに得た学術的知見を基礎に具体的なガバナンス課題に対する解決策を提言する「ホワイト・ペーパー」を起案し、広く関係ステークホルダーに向けて発表します。特に、南極ガバナンスに係わる政策的提言は、2026年5月広島市で、2027年韓国で開催される南極条約協議国会議(ATCM)に向けて作成され、研究成果の社会実装を図ります。
この事業では、南極ガバナンス研究が多国間研究交流を通じて展開すべき必然性があることを認識し、日本・豪州・韓国の3研究機関がそれぞれ特徴的な南極活動の歴史と得意研究分野をもっていることに着目し、これを有機的かつ相互補完的に組み合わせてネットワークを構築します。日本は、1959 年南極条約のアジア唯一の原署名国であり、1957年に昭和基地を設置して以降、国立極地研究所(NIPR)を中心とした地球科学研究が綿々と続いています。
ジェームズ・アンソニー・プレス
タスマニア大学 海洋・南極研究所 客員教授
柴田 明穂
神戸大学教授 PCRCセンター長
シン・ヒョンチョル
KOPRI 所長