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高等学術研究院教員紹介

教員詳細

大塚 郁夫otuka ikuo
医学研究科 准教授
大塚 郁夫

研究内容

一卵性双生児(お互いのもつ30億の塩基配列の並び≒ゲノム配列情報がまったく同じ)の双方自殺率が、二卵性双生児(ゲノム配列情報がきょうだい程度に異なる)のそれに比して3倍近く高いといった疫学から、自殺にはゲノム配列の影響が存在すると考えられてきました。ところが検体の入手困難性などが障壁となり、自殺のゲノム研究は世界的に遅れていました。私たちは、2019年当時過去最大の自殺者網羅的ゲノムデータを用いた解析により、「自殺にポリジェニック(多遺伝子性)要因が存在すること」を遺伝統計学的に示しました。また同時期に世界で初めて立ち上がった国際自殺ゲノムコンソーシアムでの連携により、自殺未遂者を含む「自殺行動者のゲノムデータ」を拡張しながら、臨床的に性別構造や質の差を有する「自殺」と「自殺未遂」を区分しての解析、さらには自殺リスクのゲノム構造の人種差に関する解析を進めています。 一方でいまのところ、上記のゲノム配列情報のみを扱う解析結果では、自殺リスクのほんの一部しか説明できていません。このことから、私たちは、人々が自殺に至る生物学的過程には、「生来のゲノム配列情報がもつリスク」以上に、人が生きていく中で受けるさまざまなストレスが影響する「後天的なゲノム変化」の関連が深い可能性を感じています。近年、網羅的ゲノム・エピゲノムデータの解析手法が急速に進展し、そうしたデータから生物学的年齢(暦年齢ではなく、個人のより生物学的な年齢を反映する指標)や体細胞モザイク頻度(一部の体細胞で後天的なゲノム配列変異が生じることによって、変異がない体細胞の中に、変異がある体細胞が混ざった状態になる、その頻度)をかなり精確に把握できるようになりました。私たちはそれら後天的なゲノム変化に関する指標の老化方向への異常が自殺と関連していることを見出しており、その生物学的基盤、さらには「ケア介入などによりそれらの指標が正常化するか」というところまでを明らかにしたいと考えています。

今後の抱負

本邦において10〜39歳の死因第1位は自殺であり、コロナ禍以降、自殺者の総数も増加傾向です。また米国でもこの20年の間に自殺者数は著しく増加しており、深刻な社会問題となっています。急激な社会情勢の変化は、長期的にも人々の生活に影響を及ぼすため、自殺者の増加傾向のさらなる長期化も懸念されています。しかしながら自殺の生物学的基盤やバイオマーカー、さらには自殺リスクを抑制するような生物学的機序について、未だ明らかとなっていないのが現状です。 特に研究内容下段にお示ししたような「後天的かつ可逆的な生物学的変化」を軸に自殺の生物学的基盤を解明することができれば、「自殺リスクに関わる生物学的変化は、介入によって回復できる部分がある」という科学的根拠に基づいて、新たなケア創出・新規創薬・ドラッグリポジショニング等を目指すことにつながると考えています。

研究略歴

2024年4月
神戸大学大学院医学研究科 准教授
2024年4月
神戸大学高等学術研究院 卓越准教授
2023年4月
神戸大学大学院医学研究科 講師
2021年4月
神戸大学医学部附属病院 助教
2019年10月
コロンビア大学 客員教授
2017年3月
神戸大学大学院医学研究科医科学専攻 博士課程 修了
2016年4月
神戸大学医学部附属病院 助教