ヒト腸管モデル - 神戸大学大学院農学研究科 食の安全・安心科学センター

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ヒト腸管モデルを利用した食品成分の機能性・安全性評価
ヒト腸管腸管モデルは、(1)免疫系腸管モデルと(2)ヒト腸内細菌叢モデル(Kobe University Human Intestinal Microbiota Model: KUHIMM)とから構成されています。
(1)免疫系腸管モデル
 食品素材・成分やその代謝産物等が直接または腸管上皮細胞を介して免疫担当細胞にどのような免疫学的影響をもたらすのかを、腸管関連リンパ組織を模した系例えばTranswell®の上層にCaco-2細胞を単層の小腸上皮様細胞、下層にマクロファージ様に分化させた細胞を配した腸管関連リンパ組織を模した系)でのin vitro実験で解析します。
(2)ヒト腸内細菌叢モデル(Kobe University Human Intestinal Microbiota Model [KUHIMM]):
 KUHIMMでは個々人由来の腸内細菌叢環境を再現し、食品素材・成分を添加してその経時的な代謝変換、腸内細菌叢構成、代謝産物等を解析しています。具体的には個々人の糞便細菌叢構成を維持した凍結培養スターターを使用し、大腸を模した嫌気的な培養環境にして、一定時間培養します。培養液の上清や沈殿(菌体)から得たDNA抽出液は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による代謝産物の分析やリアルタイムPCRを用いた細菌叢解析に供して食品素材・成分の影響を評価しています。さらに必要に応じて、LC-MS/MS等による対象物質の分解・代謝等のメタボロミクス解析、次世代シークエンサーによるメタ16S解析も行っています。
 国外には培養系ヒト腸管モデルとして、既にSHIME(ベルギー・ゲント大学)およびTIM(オランダ・TNO)といったシステムがありますが、いずれも外観と機構上はヒト消化管を疑似しているものの腸内細菌叢や代謝産物の構成パターンの再現には至っていません。一方、 KUHIMMのコンセプトは、食品素材・成分と腸内の物理化学的環境、腸内細菌叢、そして腸管細胞との相互作用を個別に調べるところに力点があり、嫌気環境における複合高密度培養をコントロールしてヒトの腸内環境(偏性嫌気性細菌優勢、菌種レベルでの多様性維持、難培養細菌の増殖、産生される短鎖脂肪酸等の構成パターン等)を正しく再現していること、当該成分の変化を追跡する機器分析、個々人の糞便検体を複数の凍結希釈液としてストックして何度でも同様の試験が再現できること、さらには小型かつ複数の培養瓶を用いて一度に多項目の試験ができることに優位性があります。

 上記の特性によってKUHIMMは下記のような知見を得る事を可能とします。
〇単体あるいは複数の機能性成分候補を添加してヒト腸内の経時的な細菌叢の構成の変化、代謝産物(主に短鎖脂肪酸等)および添加した成分の量・質的変化の予測
〇分子量がおよそ1万以下で経口摂取した場合は通常胃、小腸にて速やかに吸収され体内に入る機能性成分、すなわちヒト大腸内までは到達しないとされる機能性成分が大腸内に流入した場合、あるいは腸溶性カプセル等を用いて意図的に大腸に流入させた場合に起こり得る腸内細菌叢の細菌叢代謝産物(主に短鎖脂肪酸等)の構成および添加した成分そのものの量・質的変化の予測
〇特定のヒトの糞便検体を使った場合のみにある食品成分が細菌の働きによってヒトの健康維持や疾病予防等に資する成分活性物質となることがわかった場合は、当該の作用する細菌株を特定・分離してこの菌株をプロバイオティクスとしてあるいは当該活性物質を効率よく生産する「種菌」としての利用
 このようにKUHIMを利用して食品成分の機能性・安全性の評価システムを用いて種々の機能性食品成分候補の機能性・安全性を「プレ」評価し、この評価に基づき選択された候補のみをヒトの臨床試験(本試験)に供試することができます。即ちKUHIMは上述の新制度下の市場ニーズに100%応えるシームレスかつ実効する機能性食品素材の開発を行うプロセスイノベーションを創成するものと考えています。

参考文献:
1) Koeth RA. et al.: Nat Med. 19 (2013) 576-585
2) Suez J. et al.: Nature. 514 (2014) 181-186
3) Hayashi T. et al.: BMFH, 31 (2012) 27-36
4) Hayashi T., et al.: J Intest. Microbiol. 27 (2013) 151-158
5) Kishimoto M. et al.: BMFH 34 (2015) 11-23
6) Uchiyama S. et al.: J Intestinal Microbiol. 21 (2017) 217–220

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