活動報告

2019年1月9日

極極域協力研究センター (PCRC) 第 4 回国際シンポジウムを開催しました。(2018年12月17日-18日)

2018年12月17~18日、神戸極域協力研究センター(PCRC)と北極域研究推進プロジェクト(ArCSプロジェクト)はPCRCシンポジウムを共同で開催し、極域法分野を研究する20名以上の著名な研究者及び若手研究者が参加しました(JSPS科研費、公益財団法人 神戸大学六甲台後援会、神戸大学社会システムイノベーションセンター、神戸大学大学院国際協力研究科(GSICS)からの支援による開催)。

第4回国際シンポジウムでは、PCRC組織委員会は、特に持続性の4つの側面である経済・社会・環境・科学の統合に関わる北極資源開発の持続可能性のための国際法に焦点を当てることを決定しました。例年のシンポジウムとは異なり、本年のシンポジウムにはビジネスセクターの実務家や自然科学者を招へいし、報告が行われました。PCRCセミナーは世界中の若手研究者の登竜門となりつつあり、これが今回のシンポジウムへの若手研究者の招へいや研究報告に助成金が支払われている理由となっています。今回のシンポジウムは6人のキーノートスピーカーと6つのセッションで構成されており、ハイレベルな学術的議論を促すとともに、北極における非生物天然資源に関連する持続可能性と国際法につき、スピーカーと参加者双方の議論を促すことを目的とするものでした。

12月17日、シンポジウムは神戸大学国際協力研究科柴田明穂教授(極域協力研究センター長)が理論的枠組を提案するところから始まり、議論の根底にある統合原理としての持続可能性に焦点を当てた講演が行われました。柴田教授は、北極に適用可能な一般規則が多くあると述べ、また学術的課題は北極における鉱物資源開発のための国際法の全体的かつ系統的な理解を確立する統合的な法原則として潜在的な持続可能性を探ることだと主張しました。柴田教授はさらに、現在の北極における鉱物資源開発を取り巻く政治的および社会的文脈、当該地域におけるプロジェクトに関する現在の商業的機会や実行可能性を考慮に入れつつ、人権法や先住民の権利に関する法、国際経済法や投資法ならびに国際環境法を含む、異なる観点に基づく北極鉱物資源開発に関する国際法の現状を正確に特定する必要性を議論しました。

オープニングセッションに続き、アクレイリ大学及びグリーンランド大学のRachael Lorna Johnstone教授が、資源開発における持続可能性とグリーンランドに関する第1セッションにおいて基調講演を行い、グリーンランドにおける国際法の天然資源ガバナンスへの影響について報告をしました。Johnstone教授はグリーンランドにおける主権問題や天然資源の採掘について議論し、グリーンランドが国際法上特殊な位置づけにあると述べました。Johnstone教授によると、グリーンランドは国際法上最も国家のような主体の一つであり、デンマーク内での地位の変化が採掘産業に関連する権限の配分に変化をもたらし、また植民地や先住民の権利の向上、先住民の主権の重視が、天然資源に対する権限に変化をもたらしたとしました。Johnstone教授の基調講演後、グリーンランド大学西北欧研究科修士課程在学中のTukummingiaq Nykjær Olsen女史がパネリストとして報告をしました。Olsen女史は、天然資源管理において先住民の知識を含める必要性があることを個人的及び学問的な理由を交えながら述べました。先住民の歴史、文化、伝統に基づき、Olsen女史は先住民の知識が学術界において理解され、認められる必要があることを強調しました。また、北海道大学低温科学研究所の杉山慎教授は、「グリーンランドにおける自然環境変化とその人間社会への影響」というタイトルで講演し、グリーンランド北西部カナックにおいて行った自身の現地調査の結果について議論を行いました。杉山教授は、現地調査において杉山教授や研究チームがどのように現地コミュニティーに溶け込もうとしたか、そして現地調査の際に先住民の意見、情報、知識を考慮に入れることの重要性について述べました。杉山教授はまた、グリーンランドの氷床は年々減少しており、氷床の減少はグリーンランドのコミュニティーに影響を与えていることから、救済措置が取られなければならないことや、影響を受けているコミュニティーとデータを共有する方法についても触れていました。第1セッションの最後には、北海道大学の高橋美野梨助教が、天然資源の開発から得られる富を如何に享受するか、またグリーンランドにおける持続可能性の政治学について講演を行いました。

午後の第2セッションでは、人間及び社会の観点から見た持続可能性に焦点を当てました。イギリス・ミドルセックス大学のPeter Hough准教授は、イヌイットの文化及び持続可能性について基調講演を行いました。パネリストでフィンランド・ヘルシンキ大学研究員のDorothé Cambou博士は、天然資源に対する永久的主権の限界に関する彼女の研究について講演しました。採掘企業に関係する先住民コミュニティーの権利に対するグリーンランドの義務について、Cambou博士はグリーンランドの人々が、国際法の下で民族自決権を付与されているようにグリーンランドの天然資源に対し主権的権利を行使するが、イヌイットの人々(北グリーンランド)もまた個別の先住民コミュニティーとして特定の権利を有すると結論付けました。彼女は更に、土地や天然資源への小規模の先住民集団の権利もまた、社会的な持続可能性のために守られなければならないとしました。セッションの最後に、中国・上海交通大学凱原法学院博士課程のYu Long氏が、契約責任としての事前の自由なインフォームド・コンセント(FPIC)の実施および先住民の利益と非先住民コミュニティーの利益の調和がどの程度可能かについて議論を展開しました。グリーンランドとカナダを比較しつつ、Long氏はFPIC には採掘企業、先住民コミュニティー、及び国家権力の間での交渉を形式化する合意が存在しうるとしました。彼は、仮に契約法の下、合意が私的文書以上のものとしてみなされるのであれば、合意はより重要な役割を果たすであろうと結論付けました。

シンポジウム初日終了後、講演者と参加者はレセプションにおいて神戸牛や寿司に舌鼓を打ちながら、和やかな雰囲気の中議論を交わしていました。

シンポジウム2日目(12月18日)は、第3セッション「経済/ビジネスの観点から見た持続可能性」から始まりました。北極経済評議会・責任ある資源開発作業部会共同議長・Cowley Maritime Corp.副社長のBruce Harland氏がまず、北極における経済成長やビジネス開拓を促進ための北極経済評議会の役割に焦点を置きながら基調講演を行いました。さらに石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査課(ロシアCIS担当)課長原田大輔氏が、ロシアにおける北極石油・天然ガス開発の最近の加速化について基調講演を行いました。開発の潜在性とともに現行プロジェクトとその課題について議論を行い、特にヤマル LNG とArctic LNG-2に焦点が当てられました。原田氏は北極における炭化水素資源の高い可能性や当該プロジェクト開発の実行可能性ならびに当該地域に対する日本の関心を評価した分析を提示しました。

小樽商科大学の小林友彦教授は、国際経済法の視点から、WTOにおける補助金規則交渉から得た経験につきパネリストとして講演を行いました。小林教授はまた、海運の安全性が、北極域における持続可能な資源開発には不可欠であるとしました。加えて、既存の国際規範は現在のニーズに応えておらず、また政府のサポートが北極海の航行のための大規模船の建設のための技術を発展させるための重要な要素であるとしました。マレーシアDorairaj, Low & Teh法律事務所のKong Soon Lim氏もパネリストとして、北極における国際投資法の概要について述べ、持続可能な開発の原則を考える一方で、規制や潜在的なリスクを最小化し当該域における投資を促進および保護するための北極投資レジームの創設について議論しました。最後のパネリストである中国北欧北極研究センター事務局長Egill Thor Nielsson氏は、特に非生物天然資源開発の文脈における中国と北欧の関係について議論しました。Nielsson氏は、持続可能性が北欧諸国と中国の関係におけるカギとなる要因であるとし、さらもこれは政治、科学、経済開発といった様々な分野での既存の協力関係に基づき強化されるとしました。

シンポジウム最後の第4セッションでは、環境及び科学の観点から見た持続可能性に焦点をあてました。大妻女子大学の木村ひとみ准教授は、北極における国際環境法の役割とグリーンランドとヤマル地方の国内環境法に基調講演の中で触れ、北極における様々な環境法レジームの概要を説明しました。最初のパネリスト、東京海洋大学の大河内美香准教授は、北極における石油・天然ガスの持続可能な開発のための安全管理制度(SMS)の確立について述べました。ヤマル半島の事例を挙げながら、大河内准教授はSMSと健康・環境・安全管理システム(HSEMS)が、国際機関や企業による持続可能な開発のための、最新の環境保護基準や国際的な安全確保を提供するためにきわめて重要であると結論付けました。フィンランド・ラップランド大学北極センターの研究員であるJoëlle C. Klein女史と、PCRCの研究員でフィンランド・ラップランド大学博士課程に在籍している Romain Chuffart氏は、北極における天然資源の持続可能な開発に向けた環境影響評価(EIA)の手続の法的潜在性について述べました。Klein女史は、環境影響評価の調和により、基準となるデータの確立や累積的で長期的な影響の観察、先住民のコミュニティーの参加の明確化ならびに国際人権法の包含することが促されると述べました。第4セッション最後のパネリスト、スペイン・ポンペウファブラ大学博士課程に在籍中のDaria Shvets女史は、持続可能性を通した北極における採掘活動と海底ケーブル敷設の自由の均衡に焦点を当てていました。採掘活動およびケーブル敷設が北極国の大陸棚における不可欠な活動であるというのが、Shvets女史の結論でした。Shvets女史によると、国連海洋法条約にはケーブルの交差について言及が無く、北極評議会の通信インフラに関するタスクフォースの枠組みの中で特定の地域的な規則の創出を議論しました。

最後セッションでは、カナダ・カルガリー大学のNigel Bankes教授が、自国領域内における国家の天然資源開発に対し、国際法はいかに規制することができるのかについて分析を加えるとともに、あらゆる持続可能性に関する要素をまとめました。最後に、北海道大学・北極域研究センターの大西富士夫准教授が持続可能性、科学、政治、そして国際法について国際関係論の視点に基づきまとめを行いました。大西准教授は統合的な法原則の持続可能性や北極における鉱物資源のための国際法の理解を高めることの必要性を述べ、講演を締めくくりました。最後に、柴田教授からスピーカーと参加者、またGSICS の博士・修士課程の学生スタッフの協力により実りのあるシンポジウムが開催できたことに対して感謝の意が示され、シンポジウムは閉会しました。

神戸大学国際協力研究科博士課程1年 幡谷咲子


 


2018年12月17ー18日

第4回神戸大学極域協力研究センター(PCRC)国際シンポジウム
北極資源開発の持続可能性と国際法
International Law for Sustainability in Arctic Resource Development

日 時:2018年12月17日(月)〜18日(火)
場 所:神戸大学六甲台第1キャンパス 社会科学系フロンティア館
言 語:英語(同時通訳はありません)
参加登録:事前参加登録をお願いします(12月3日まで)。
< http://www.research.kobe-u.ac.jp/gsics-pcrc/sympo/2018-4th-sympo/program.html >
定 員:90名 (※定員になり次第、締め切らせていただきます。)
趣 旨:
  海氷減退に象徴される北極域での環境変化は、他方で北極海航路の利活用、資源開発をはじめとする経済的・商業的機会の増大をも意味します。北極域では、すでに石油・天然ガス・その他鉱物資源の開発が進んでおり、北極鉱物資源開発の課題はどのようにその持続可能性を確保するかに移っています。本シンポジウムは、気候変動の影響に晒され環境的に極めて脆弱で、且つ、先住民を含む約400万人の住民の社会経済基盤と密着した特別な地域としての北極域における鉱物資源開発につき、国連持続可能な開発目標(SDGs)の基本理念である持続可能性(sustainability)と経済・環境・社会面の統合(integration)をキーワードにしながら、具体的な事例として、グリーンランドとロシア連邦ヤマル地方の資源開発を題材として、ルールに基づく北極鉱物資源開発のガバナンスのあり方について議論をします。

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