南極

活動記録

南極の科学と国際動向を考える研究会

趣旨

南極をめぐる科学的・法政策的な諸課題 が山積する中で、これらに効果的に対応するために、社会科学と自然科学の研究者の緊密な連携の下に本研究会(南極国際動向研究会)を立ち上げ、ここに南極の各政策に関わる省庁関係者にも参画してもらい 、ざっくばらんに意見交換し、諸課題に関する共通理解を促し、その対応策について検討する。日本における南極研究全般の底上げのため、また南極科学/国際動向を俯瞰できる人材/研究の推進のため、若手研究者の参加を特に奨励する。

新・南極国際動向研究会フォーラム (PWが必要です)


最終更新日:2024年2月7日


第18回研究会 :2024年3月4日(月)15:00 〜 17:00 
報告者・テーマ
「南極における雪氷ジオエンジニアリングのガバナンス」
 ・・・Patrick Flamm フランクフルト平和研究所(ゲストスピーカー)


過去の研究会



第17回研究会 :2023年9月26日(火)15:30 〜 17:00 [オンライン開催]
報告者・テーマ
「南極条約体制におけるソフトローの役割:決議実施のベストプラクティス研究」
 ・・・Kees Bastmeijer オランダ・フローニンゲン大学教授(ゲストスピーカー)


第16回研究会 :2023年6月15日(木)12:15〜14:00 [オンライン開催]
報告者・テーマ
「45 ATCMヘルシンキ個人的報告:暗雲立ちこめる南極国際ガバナンスの将来」
 ・・・柴田明穂(神戸大学)


第15回研究会 :2023年3月2日(木)17:00〜18:30 [対面のみ、英語で行われます]
ゲストスピーカー:
 Evan Bloom氏(米国ウィルソンセンター上級研究員/前・米国国務副次官補)
テーマ:米国の北極・南極政策と極域ガバナンスの将来
場所:神戸大学六甲台第1キャンパス 第4学舎(国際協力研究科)4階 プレゼンテーションルーム
参加登録:下記URLより2月28日までに事前登録願います。
<https://forms.gle/VbLN6bdv2QV82exE6>

プログラム:
16:30     開場
17:00〜17:40 Evan Bloom氏の基調講演
17:40〜18:00 Timo Koivurova教授/柴田明穂教授のコメント
18:00〜18:30 討議
19:00〜20:30 歓迎レセプション(事前登録者のみ、詳細はメールで連絡)

資料:米国北極戦略2022年10月


第14回研究会 :2022年12月3日(土)10:30〜12:30 [対面原則、日本語]
テーマ:
 杉山慎著『南極の氷に何が起きているか』(中公新書、2021年)を題材として、
 日本の南極氷床研究及びその成果と、ATCMにおける気候変動問題対応との「掛け橋」を
 どう築いていけるか、日本の南極氷床研究の南極条約政策的インプリケーションを考える
話題提供者/コメンテイター:青木茂・原田尚美・木村ひとみ
場所:神戸大学六甲台第1キャンパス内


第13回研究会 :2022年9月14日(水) 12:30〜16:30 [対面のみ、英語で行われます]
ゲストスピーカー:
 Kees Bastmeijer教授(オランダ・フローニンゲン大学教授・北極センター長)
テーマ:ロシア侵略後の南極条約体制の動向
場所:上智大学四谷キャンパス内及び近隣レストラン
詳細:9月9日(金)お昼までに出欠をご連絡下さい。詳細は出席者に個別に連絡します。
主な話題:
① ロシア侵略後のATCMのあり方全般
② 南極観光活動今後の規制動向
③ 環境責任附属書の今後の動向
④ ATCMないし南極条約体制全般における中国の動向
 (コウテイペンギン特別保護種指定提案反対の理由、など)
⑤ その他
第44回ベルリンATCMの公式文書及び最終報告書はすでに公開されております。
<https://www.ats.aq/devAS/Meetings/Past/94>


第12回研究会(SCAR OSC) :2022年8月3日(水)〜4日(木)
セッション:The Resilience of the Antarctic Treaty System in the Anthropocene

本研究会が提案した上記セッションがSCAR Open Science Conference (OSC)で採択され、以下の研究報告が行われます。SCAR OSCは、南極に関わる全ての分野を網羅する世界最大の学術会議です。今回は完全オンラインで開催され、登録は無料です。https://app.scar2022.org/login.php


(日時はすべて日本時間)

♦8月3日(水)14時〜16時 人新世下の南極条約体制の強靭性
・大久保彩子・・・
 Interplay management in the Antarctic regime complex
・柴田明穂・・・
 Aggression and the Antarctic Treaty System: The End of Antarctic Exceptionalism?
・來田真依子・・・
 Current Development of Port State Measures in CCAMLR: Interaction with FAO Port State Measures Agreement
・幡谷咲子・・・
 Legal Implications of China’s Proposal for an Antarctic Specially Managed Area (ASMA) at Kunlun Station at Dome A

♦8月4日(木)18時〜20時 南極環境保護のための科学と法政策の協働
・原田尚美・・・
 Basic research on the functioning of marine life in the Southern Ocean and its relationship to science policy
・稲垣治・・・
 The Development of Concept “Cumulative Impacts” under the Antarctic Treaty System
・青木茂・・・
 Intensive observation campaign off Sabrina Coast, East Antarctica, to predict the future ice loss
・木村ひとみ・・・
 Role of SCAR in Climate Science Diplomacy under the Ukraine Crisis


第11回研究会:2022年4月26日(火)13:00〜14:30 / 4月27日(水)17:00〜18:45
テーマ:ウクライナ侵略を受けた今後の南極科学観測協力及び南極条約体制のあり方についての意見交換会
♦第1部 : 2022年4月26日(火)13:00〜14:30
5月ドイツATCM、SCAR、南極科学協力全般
 ・・・・・ 伊村 智(国立極地研究所)
CCAMLR関係全般
 ・・・・・ 森下 丈二(東京海洋大学)
♦第2部 : 2022年4月27日(水)17:00〜18:45
5月ドイツATCM、COMNAP、DROMLANなどロジ協力全般
 ・・・・・ 橋田 元(国立極地研究所)
DROMLAN法的関係補足
 ・・・・・ 稲垣 治(神戸大学)
南極条約体制全般-国際法の観点から
 ・・・・・ 柴田明穂(神戸大学)


南極条約発効60周年記念公開講演会「 南極条約60年と日本、そして未来へ」
日時:2021年6月9日(水) 13:30〜16:15
場所:オンライン開催(事前登録制)
詳細: ホームページをご覧ください。

13:30 開会 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・  室山哲也
13:40 「南極条約60年:その意義と将来の課題」・・・・・・・・  柴田明穂
14:00 基調講演「南極における法の支配」・・・・・・・・・・・ 岡野正敬
14:30 コメントと質疑「国際関係からの視点」・・・・・・・・・ 都留康子
14:50 「南極からのメッセージ」 ・・・・・・・・・・・・・・・  中山由美
15:10 「南極条約下での日本の南極観測と科学研究」 ・・・・・・  中村卓司
15:30 「国際協力で進む南極のペンギン生態研究」 ・・・・・・・  高橋晃周
15:45 ディスカッション、聴衆からの質問   ・・・・・・・・・・ 室山哲也/全員
16:15 閉会


Wilson Center Polar Institute主催オンラインセミナー: 2021年4月6日(火)2:00-4:00(日本時間) 
テーマ:
「南極環境の保護:バイデン政権の優先課題は何にすべきか」
 ・・・柴田明穂 気づきの点及び本研究会への示唆


第10回研究会:2021年1月28日(木)15:00〜17:00
報告者・テーマ
「2人の隊長が語る日本の南極地域観測事業の現状と課題」
 ・・・原田尚美 JAMSTEC地球環境部門 地球表層システム研究センター長、第60次JARE夏隊長
 ・・・青木茂 北海道大学低温科学研究所・准教授、第61次JARE隊長
(資料:非公開)


第9回研究会:2020年10月16日(金) 15:00〜17:30
報告者・テーマ:
「変化する世界の中の南極条約」2019年ロシア作業文書の分析
 ・・・・・柴田 明穂 (神戸大学・PCRCセンター長)
気候変動への南極条約体制の対応:現状と課題
 ・・・・・木村 ひとみ(大妻女子大学・准教授)
南極における非政府活動に対する管轄権の問題について
 ・・・・・鹿兒島 祐介(筑波大学 大学院 人文社会ビジネス科学学術院)


第8回研究会:2020年9月28日(月)15:00~17:00 
報告者・テーマ:
・日本の南極地域観測事業:現状と課題【資料1】【資料2】
 ・・・・・小野寺 多映子氏(文部科学省研究開発局海洋地球課・課長補佐)


第7回研究会:2020年7月31日(金)15:00~17:00 
報告者・テーマ:
最近の南極条約協議国会議(ATCM)の諸課題について/
 ・・・・・岩崎敦志(外務省地球環境課・上席専門官)


第6回研究会:2020年1月10日(金)15:30~17:30、情報システム研究機構会議室 
報告者・テーマ:
SCARの「南極条約体制に関する常設委員会(SC-ATS)」について/
 第38回南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR-38)について

 ・・・・・高橋晃周(極地研・SC-ATS委員・CCAMLR-38日本政府代表団員)
      コメンテーター:森下丈二(東京海洋大学)


公開国際ワークショップ(スピンオフ研究会):
南極条約体制の強靭性、南極におけるPolicy-Law-Science Nexus特別セッション

日時:2019年12月3日(火) 14:00〜18:00
場所:オーストラリア・タスマニア州ホバート IMAS会議室
報告者:
稲垣治・橋田元「DROMLANと南極条約体制」
幡谷咲子・柴田明穂
「南極ドームAの中国Kunlun基地及び周辺ASMAないし行動綱領提案の法的意義」
詳細はこちら


第5回研究会:2019年9月20日(金)15:30〜17:30、国立極地研究所(立川)3階会議室 
テーマ:南極バイオプロスペクティング
1.ATCM42における南極におけるバイオプロスペクティングに関する議論
 ・・・伊村 智(国立極地研究所)
参考:観測隊が採取した南極産酵母が産業利用
2.南極bioprospectingをめぐるATCMの議論:今後の対応への示唆
 ・・・・・柴田明穂(神戸大学)
参考: Final Report of 42 ATCM (preliminary, 2019)
3.フリー・ディスカッション(60分)・・・・・・・・・・・・・・・参加者全員


公開スピンオフセミナー@札幌
日時:2019年8月6日(火)16:00〜18:00
場所:北海道大学低温科学研究所 講義室2F 215号
報告者及びテーマ
・柴田明穂「研究会の趣旨/2018年Nature誌南極特集号のショック」(30分)
・青木 茂「日本の南極海観測の課題と次期砕氷船への期待」(30分)
・フリーディスカッション(60分)

<参考資料>
・Nature誌「Reform the Antarctic Treaty
・国立極地研究所「南極みらいビジョン2034」「南極地域観測将来構想(2019年5月)


スピンオフ公開研究会
7月12日(金)17:00〜18:30、神戸大学国際協力研究科

報告者:Donald Rothwell, Professor, Australian National University
報告テーマ:Dispute Settlement under Antarctic Treaty System


第4回研究会:2019年6月6日(木)15:30〜17:30、情報・システム研究機構会議室 
テーマ:第42回ATCM(7/1-11、チェコ)をめぐる南極の科学と国際動向の最新状況

1.第4回研究会のねらい
2.南極における無人航空機の使用について、その他・・・藤原淳一・安生浩太(環境省)
3.南極バイオプロスペクティングについて・・・・・・・・伊村 智(国立極地研究所)
4.協議国資格承認基準の今後の運用/2025 ATCM(開催予定地:日本)
のアジェンダを予想する
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・柴田明穂(神戸大学)
5.フリー・ディスカッション(60分)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・参加者全員
6.今後の研究会について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・柴田明穂・伊村 智


SCAR人文社会科学常設委員会研究大会:2019年4月3−5日(アルゼンチン・ウシュワイア) 
「南極条約体制の強靭性」及び「南極における政策・法・科学の連関(PoLSciNex)」に関する国際研究プロジェクトにつき研究発表。詳細はこちらの英語ページをご覧下さい。


第3回研究会:2019年3月14日(木)14:30〜16:30、情報・システム研究機構会議室 
テーマ:IGYから60年を経た南極の基地と輸送-大規模リノベーション・新基地建設・新砕氷舶建造・航空網拡充-

1.第3回研究会のねらい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・柴田明穂
2.IGYから60年を経た南極の基地と輸送-大規模リノベーション・新基地建設・新砕氷舶建造・航空網拡充-・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・橋田 元(国立極地研究所)
3.南極基地とアクセスの国際法政策的側面
3.1:南極航空網と南極条約体制:DROMLANを例に・・・・・・・・・・稲垣 治
3.2:南極基地をめぐる国際法政策的インプリケーション:特に中国の動向を中心に
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・柴田明穂
3.3:事例分析:中国による崑崙Dome A基地周辺に特別管理地区を設置する提案
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・幡谷咲子
4.フリー・ディスカッション(60分)・・・・・・・・・・・・・・・・参加者全員
5.今後の研究会について・・・・・・・・・・・・・・・・・・柴田明穂・伊村 智


第2回研究会:2019年1月18日(金)15:00〜17:00、情報・システム研究機構会議室 
テーマ:海洋保護区(MPA)を中心とした南極海洋生物資源保存条約/委員会(CCAMLR)の動向について
(報告者)
1.第2回研究会のねらい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・柴田明穂
2.CCAMLRにおけるMPA設立をめぐる議論について・・・・・・・・・森下丈二
3.南極のMPAをめぐる多国間交渉:その説明要因を考える・・・・・大久保彩子
4.CCAMLRにおける「合理的な利用」の解釈とMPA設立問題・・・・・稲垣 治
5.フリー・ディスカッション(60分)・・・・・・・・・・・・・・・・・参加者全員
6.今後の研究会について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・柴田明穂・伊村 智


公開国際ワークショップ(スピンオフ研究会):南極条約体制の強靱性
日時:2018年12月19日(水)、9:30〜12:30
場所:神戸大学大学院国際協力研究科(GSICS)6階 シミュレーション・ルーム
言語:英語(通訳はありません)

(プログラム)
1.Why “The Resilience of the Antarctic Treaty System” today?: Aim of the project
Julia Jabour, IMAS, University of Tasmania, Australia
Akiho Shibata, PCRC, Kobe University, Japan
2.How Do We See the Future Challenges of ATS?
Luis Valentin Ferrada, University of Chile, Chile
Jill Barrett, Queen Mary, University of London, United Kingdom
Kees Bastmeijer, Tilburg University, The Netherlands
3.Discussion
Nigel Bankes, University of Calgary, Canada
Rachael Lorna Johnstone, University Akureyri, Iceland


第1回研究会:2018年10月18日(木)15:00〜17:00、情報・システム研究機構会議室 
(報告者)
1.研究会の進め方・趣旨説明・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・柴田明穂
2.南極海洋生物資源をめぐる「懸念」?-国際法の観点から・・・・・來田真依子
3.国際法から見た南極をめぐる科学-Nature誌が示唆する諸問題・・・・本田悠介
4.フリー・ディスカッション(60分)・・・・・・・・・・・・・・・・・参加者全員
5.今後の研究会について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・柴田明穂・伊村 智

 

 

イベント・成果報告


2023年12月20日

第3回南極公開シンポジウムが開催され、2026年ATCMに向けて南極科学とガバナンスの関係について重要な議論が展開されました!

YouTube動画でオンデマンド視聴公開中!

神戸大学極域協力研究センター(PCRC)、大学共同研究機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所(NIPR)共催の「第3回 南極公開シンポジウム」が2023年12月2日に神戸大学で開催されました。テーマは「コウテイペンギンから考える新・南極ガバナンス」です。
冒頭の基調講演では、動物生態学者の渡辺佑基教授(総合研究大学院大学)が、気候変動がペンギンの生態にどんな影響を与えているかを紹介。続いて、神戸大学の柴田明穂教授が国際法の観点から「切っても切れない? 南極科学とガバナンス」と題して、南極での科学的知見が南極条約のもとで国際ガバナンスにどのように活用されているかを解説しました。さらに、外務省国際法局の中村和彦審議官が国際法の視点から、「南極の環境を取り巻く国際的取り組みと日本」と題した基調講演を行い、日本としての南極ガバナンスへの貢献や、2026年に日本で開催されるATCM(南極条約協議国会議)に向けた取り組みなどについて説明しました。最後に、登壇者3人に国立極地研究所のメンバーを加えてパネルディスカッションが開催され、充実した意見交換がなされました。

日時:2023年12月2日(土)13:30〜15:30
場所:神戸大学第一キャンパス 第5学舎 4階プレゼンテーションルーム
出席者:
 基調講演  外務省国際法局 中村和彦審議官
 基調講演  総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター 渡辺佑基教授
 講演    神戸大学極域協力研究センター 柴田明穂教授
 パネルディスカッション 中村審議官、渡辺教授、柴田教授
             国立極地研究所 野木義史所長、伊村智副所長
 司会 大妻女子大学 木村ひとみ准教授


【開会の挨拶】国立極地研究所 野木所長

南極ガバナンスを考える上での基本は、南極条約です。この条約には南極地域の平和利用、科学的調査の自由と国際協力の推進、南極地域における領土権主張の凍結、条約を守るための監視員制度などが定められています。さらに、南極の環境と生態系を包括的に保護するという目的で、南極条約環境保護議定書が採択されています。
南極条約は1959年に日本、アメリカ、イギリスなど12か国によって採択され、現在の締約国数は56か国に上ります。南極に基地を設置するなど積極的に科学的調査・活動をしている協議国はそのうち29か国です。これらの協議国が南極条約のもとで南極ガバナンスを担う最重要会議がATCM(Antarctic Treaty Consultative Meeting)です。2026年にはATCMが日本で開催される予定になっており、本シンポジウムはATCM日本開催に向けて、南極の科学とガバナンスについて理解を深めるとともに、南極条約体制の枠組みを考えるよい機会となります。


【基調講演】 総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター 渡辺佑基教授
ペンギンと気候変動

◆南極のペンギンは気候変動の監視人
南極に生息するペンギンは、「気候変動の監視人」と呼ばれており、それには主に3つの理由があります。まず、ペンギンは海氷を利用して生活しているため、地球温暖化によって海氷が減ると大きな影響を受けると考えられること。2つ目は南極に住むペンギンは人間活動の影響を受けにくく、気候変動の影響だけを見やすいこと。3つ目はペンギンには集まって巣を作る習性があり、そうした集団が各国の基地の近くにあるので数を数えやすいことです。個体数などのデータが長年にわたって蓄積されているため、気候データと重ね合わせると気候変動が生物に及ぼす影響が見えてきます。
ちなみに南極で繁殖するペンギンは5種類います。南極の中でも暖かい地域に生息するペンギンから順に、マカロニペンギン、ジェンツーペンギン、ヒゲペンギン、アデリーペンギン、コウテイペンギンです。また、同じアデリーペンギンでも極寒の地域に住む集団もいれば、比較的暖かい地域に住む集団もいる。つまり、住んでいる気候帯が違えば、気候変動の影響の受け方も当然変わってくるのです。

◆暖かい地域に住むペンギンは気候変動の影響を受けやすい
南極で地球温暖化の影響を最も大きく受けているのが南極半島です。このエリアには、主にジェンツーペンギン、ヒゲペンギン、アデリーペンギンの3種類が住んでいて、それぞれの個体数が数十年にわたって記録されています。このデータを気候データと重ね合わせたところ、海氷の減少とともにアデリーペンギンだけが減少傾向にあることがわかりました。このエリアに住む3種類のうち、アデリーペンギンは寒冷地に最も適したペンギンです。つまり、寒冷地を好むアデリーペンギンは、比較的暖かい南極半島がさらに暖かくなると住みにくくなるのです。
南極半島では1947年にコウテイペンギンが生息するエリアも発見されています。当時そこには約180つがいがいて、数十年間は180から200つがいくらいの間で安定していたのですが、1970年以降急減し、2000年にはごくわずかになり、2010年には個体数はゼロ。つまり1つの繁殖地が消滅したのです。ここからわかるのは、前述のアデリーペンギンと同様に、比較的温暖な地域にいるペンギンほど気候変動の影響を早く受けるということです。

◆温暖化が南極のペンギンにどう影響するのか
過去数十年にわたり、南極各地の氷の増減を記録したデータを見ると、南極には氷が減っている場所と増えている場所、大きな増減が見られない場所があります。氷の増減には地域差があるのです。南極の氷を平均してみると、年によって変動はありますが、人工衛星による計測が始まった1978年頃から数十年にわたり南極の氷はゆっくり増えていましたが、2016年を境に氷の面積は急激に減り始めました。
私は2016〜17年に南極観測隊に参加し、昭和基地周辺のアデリーペンギンの調査をしました。調査は「バイオロギング」という方法で行いました。ペンギンの体にGPSやビデオカメラなどを取り付けて行動をモニタリングし、巣に戻ったところで機器を回収する方法です。例年どおり氷がある年は、ペンギンは氷原をトコトコ歩いて海に向かい、氷の割れ目を探して海に飛び込んではオキアミなどの獲物を探し、再び割れ目から氷上に出て、歩いて巣に戻ります。ところがこの年は氷が溶けて昭和基地周辺まで海が広がっていたため、ペンギンたちは巣の近くから海に飛び込み、獲物をとるとすぐに巣に戻りました。ペンギンは歩くよりも泳ぐ方が圧倒的に速いので、親ペンギンの行動範囲が広がった一方で、オキアミを頻繁にとれたため、親鳥の体重が増えました。また、ひなも十分にもらえたために体重がよく増えて成長が早く、生存率が高くなりました。昭和基地周辺は分厚い氷に囲まれていて、アデリーペンギンの生存には厳しい場所です。こうした場所が温暖化すると、アデリーペンギンにとってはポジティブな影響が出ると考えられます。
ただしこの状況がすべてのペンギンに当てはまるわけではありません。動物には種によって最適な気候帯があり、それより暑すぎても寒すぎても生存率は下がります。寒さが厳しい昭和基地周辺に住むアデリーペンギンは、暖かくなると生存率が上がりますが、温暖な南極半島に住むアデリーペンギンは、さらに温暖化が進むと坂を転げ落ちるように減少するでしょう。
極寒の地を好むコウテイペンギンにはすでに温暖化の負の影響が現れています。さらに今後については、2100年までにコウテイペンギンはどんどん減少し、温暖化が顕著であればあるほど悪い影響が出ると予想されています。


【講演】神戸大学大学院 国際協力研究科 極域協力研究センター長 柴田明穂教授
切っても切れない? 南極科学とガバナンス

◆南極条約の成り立ち
私は2016〜17年に日本の国際法学者として初めて南極観測に同行しました。また、南極条約のもとで南極ガバナンスのあり方を決める国際会議ATCMにも日本代表団の一員として参加した経験があります。こうした観点から南極の科学活動とガバナンスが『持ちつ持たれつ』の関係であるということをお伝えしたいと思います。
南極条約ができる以前から、イギリスやアルゼンチンなど7つの国が「南極の一部は自国の領土である」と主張し、それに対してアメリカやソ連、日本は反対の立場をとっています。1952年にはイギリスの部隊がアルゼンチンの部隊に対して発砲するという事件が起きました。このような紛争などを回避するために1959年にできたのが南極条約です。その最も重要なポイントは「南極を非軍事化し、平和利用する」という点です。
南極条約成立以前の1957〜58年には「国際地球観測年」があり、国際協力によって地球の物理学的調査が組織的に行われました。この期間に南極に基地などを設置して観測を行うことができた12か国が南極条約の原署名国となりました。その中には日本も含まれています。南極条約は原署名国に対して特別な責任と権利を与えています。

◆南極条約では科学力=発言力
現在、南極条約を締約している国は56か国で、そのうち、ATCMで発言権をもつ「協議国」は29か国です。つまり南極条約を締約していても約半数の国は協議国になっておらず、発言権がないのです。協議国になるには南極で科学観測などを実施しているという実績が必要です。つまり、南極条約のもとでは科学活動を行っている国のみが発言権を持ち、南極のガバナンスを決められるのです。また、南極条約は、ATCMでの決定に「全会一致」のルールを定めています。ATCMで何かを決めるには全協議国が賛成し、さらにその後、各協議国がその内容を承認してはじめて法的効力が発生します。
このようにATCMでは科学力を発言力の根拠としています。ところが最近、政治が南極ガバナンスに影響するケースが見られるようになりました。今年のATCMでカナダとベラルーシが協議国入りを希望しましたが、協議国であるロシアとウクライナの対立などから、全会一致の賛同が得られませんでした。全会一致を成立させるには協力の精神が不可欠です。この精神が弱まると反対しやすい雰囲気となり、今後も物事が決まりにくい状況になるのではと懸念されます。

◆南極の環境保護政策
科学力=発言力であるはずの南極条約体制ですが近年、科学者から南極ガバナンスの決定過程に科学的な知見が十分に反映されていないという不満が提示されています。その2つの例を紹介します。
1つはコウテイペンギンに関すること。ここ数年、SCAR(南極研究科学委員会)の報告書に基づき、コウテイペンギンは危急種(絶滅の危険が増大している種)になることが予想されるため保護しようという動きが高まり、関係国が合意に向けて議論を重ねてきました。その上で2022年にドイツで開催されたATCM で、イギリスがコウテイペンギンを特別保護種に指定して手厚く保護すべきだと提案したのですが、中国が「コウテイペンギンは危急種に指定されていない」などと反対し、結局廃案になってしまいました。
もう一つは特別保護地区に関することです。今年のATCMで、東南極のある小さな露岩地区を50年間立ち入り禁止にして微生物などの環境保全をした後、他地区と比較研究し、将来の科学活動に活かそうという提案がなされ、ベルギーやイギリス、SCARなどがそれを支持しました。ところがそれに対して中国が、入域禁止は他の科学活動の制限にあたるなどと反対し、立ち入り禁止ではなく立ち入り制限地区とすることで決着しました。こうしたことについて科学者は、ATCMは真に科学に基づいて環境政策を決定しているのかとの疑問を呈しています。 南極には自然保護だけでなく、気候変動、海洋資源や海洋プラスチックごみなど解決すべき問題が山積しています。国際法学者としては、科学活動と南極ガバナンスの持ちつ持たれつの関係を維持しつつ、制度的な仕組みをうまくつくっていくことが重要であると考えています。


【基調講演】外務省国際法局 中村和彦審議官
  南極の環境を取り巻く国際的取り組みと日本  −主に国際法の観点から−

◆南極における日本の活動・関与
日本政府は、観測船「しらせ」で毎年南極観測隊を送り出し、各基地で研究観測を行っています。また、日本は南極近海でメロ(ギンムツ)の漁を行っており、毎年200〜300tの漁獲高となっています。日本から毎年700名程度の観光客が南極に行っていますが、南極への観光客は年間10万人に上り、主要国の中では日本人旅行者は多くはありません。近年は日本の旅行会社が催行するツアーはなく、海外企業が主催するツアーに参加しているようで、全員が上陸するわけでなく、沖合から南極を見るだけの場合もあるようです。日本のこうした活動・関与を背景に、南極の環境保護をどう実施し、どう発展させていくかを考えてみたいと思います。

◆南極条約体制における南極の環境保護の仕組み
コウテイペンギンに関して、適用される可能性のある環境保護の枠組みを取り上げます。まず、南極条約(前出)があり、それに加えて1991年に「南極条約環境保護議定書」が採択されています。これはATCMで南極条約と同様に運用され、附属書を追加できます。この2つが南極の環境保護の枠組みのコアと言えます。他に、「南極海洋生物資源保存条約(CCAMLR/カムラー)」があります。これは、魚や甲殻類だけでなく、それらと生態系上つながっているあらゆる生物種を含む海洋生物資源の保護を目的とする条約で、対象となる生物種として鳥類、つまりコウテイペンギンも含みます。
次に、こうした枠組みの下でコウテイペンギンのために使われうるツールを紹介します。1つは南極条約環境保護議定書の附属書Ⅱで定められている「特別保護種の指定」です。特別保護種に指定されると原則的に殺したり採捕したりすることが禁止されます。現時点で、特別保護種の指定されているのはロスアザラシ1種のみで、ツールとしての実効性につき科学的見地からの意見を伺いたいと思います。
他に、コウテイペンギンの生息地に保護区域を設定するという方法もあります。そのやり方にはいくつかあり、1つは南極環境保護議定書の附属書Vに基づく「南極特別保護地区(ASPA)」あるいは「南極特別管理地区(ASMA)」を設定するというものです。ASPAは環境上、科学上、芸術上、もしくは原生地域として顕著な価値を有する地区について、許可証を持たない人は原則立ち入り禁止という厳しいもので、これまで78か所に設定されています。一方のASMAは調査活動の調整などを通じて環境への影響を抑えるというもので7か所が指定されています。この2つはコウテイペンギンの保護という目的に叶う仕組みだと考えられます。
もう1つ、CCAMLRに基づき「海洋保護区域」を設定するやり方があります。区域内の複数の地点で異なる条件を設定でき、ASPAとASMAの中間的なものと言えます。すでに2か所が指定され、提案中の区域は4つありますが議論は苦戦しています。
ほかに、コウテイペンギンの保護に関連して、南極条約体制外の既存の条約2つ、これから発効する条約を1つ取り上げます。1つは1993年に発効した「生物多様性条約(CBD)」です。グローバルに適用される条約で、南極にも適用可能ですが、生物をその生息地域から出さず、その地域の生態系全体を守る生息域内保全を原則とするので、南極条約との矛盾はありません。2つ目は1975年に発効した「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)」です。今後、同条約の附属書にコウテイペンギンを掲載し、輸出などの取引を規制すべきかが論点となり得ます。3つ目は未発効の「国家管轄権外の区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する協定(BBNJ協定)」です。発効すれば、南極条約体制との調整・協力が議論となると思います。

◆南極条約体制とそれ以外の仕組み
気候変動は南極だけで起こっているわけではなく、むしろ、他地域で起こっていることが南極に影響を及ぼしています。したがって、南極での対策より、地球全体でどうするかを考えるべきです。観光客に関しても同様です。観光客は南極条約締約国以外からも訪れているのですから、南極条約体制のもとで作り上げてきた環境保護の規制を、南極条約締約国以外に広げる方法を考えなければなりません。これについてはさまざまな議論がありますが、そのうち3つの論点を紹介します。
1つは「ウィーン条約法条約」です。条約法とは条約に関するルールのことです。これによると、南極条約や南極条約環境保護議定書に基づく義務は締約国のみが負うもので、条約に入っていない国に守らせることはできないと定められています。
2つ目は「慣習国際法」です。国際法には、明文化されていないルールでも大多数の国が守るべきだとすると慣習国際法として確立するという特徴があります。しかし、世界で196の国があるなかで、南極条約締約国は56か国ですから、南極条約、南極条約環境保護議定書の内容は、国際慣習法になるほどの広がりはないと考えられます。
3つ目は「南極は人類の共同の財産か」という議論です。1980年代初めに国連海洋法条約ができて、深海底は「人類の共同の財産」とされました。しかしながら、「人類の共同の財産」の概念は、海洋法条約より古い南極条約では用いられていません。また、「人類の共同の財産」たる深海底の地位は、資源の国際共同開発のための深海底制度やそれに伴う国連海洋法条約締約国の権利義務と密接に結びついています。南極にはそうした国際共同開発の制度はなく、将来的にも、南極条約の非締約国が共同開発を受け入れるとは考えにくい。したがって「人類の共同の財産」という概念を持ち出すのも難しいでしょう。

◆気候変動に対して南極条約体制下で何ができるか
コウテイペンギンのお話を伺っても、気候変動が南極に及ぼす影響は甚大です。ではこの問題に対して南極条約体制のもとで何ができるかを考えてみました。
1つは国際世論の喚起及び啓発です。科学的調査や報道を通じ、南極で今起きていることを世界に伝え、気候変動問題への取組みを促すのです。2つ目は、南極条約体制下で気候変動対策を採択・実施できるか検討することです。ただし、南極ではもともと人間活動が少ないので温室効果ガスの排出制限などはあまり効果がないだろうと思います。また、特殊な機器を持込みや、大規模な施設・インフラの建設はかえって南極の環境破壊につながる可能性があり、現実的ではないでしょう。したがって、3つ目の、他のグローバルな枠組みとの連携が重要になります。例えば気候変動枠組条約やパリ協定、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書などに注力し、着実に実施していくことは、南極で起きている気候変動の影響の抑制につながりますし、費用対効果を考えるとより有効かもしれません。

◆2026年に日本で開催されるATCMに向けて
日本で開催予定のATCMに向けての準備がこれから始まります。外交当局で国際法を所管する立場にある者としては、南極地域における法の支配がどうあるべきかとの観点から関与することになります。近年、新たに参入し、または活動を強化している新興国・途上国との協力を視野に、環境保護規制についても南極条約に規定された科学や国際協力という原則に立ち戻り、科学の対話を深めることによってさまざまな課題を克服していく流れを作ることが重要です。2026年に向け、そのような流れを作れる議題設定を目指したいと思います。


【パネルディスカッション】
(パネリスト)中村審議官、渡辺教授、柴田教授、国立極地研究所 野木所長、伊村副所長
(司会)大妻女子大学 気候変動法政策 木村ひとみ准教授

左から、中村審議官、渡辺教授

木村:地球温暖化の影響で海氷が減少し、一部地域ではコウテイペンギンの繁殖地に壊滅的な打撃があるというお話を伺いました。渡辺先生、これについて科学的な観点からコメントをお願いします。
渡辺:同じコウテイペンギンでも生息地によって温暖化の影響の現れ方は異なります。それを踏まえた上で個人的には、近年はコウテイペンギンの数が減りつつある地域が多いような気がしています。コウテイペンギンが氷に依存して生活しているのは間違いないので、氷の減少が地域によってどう出るか。その結果コウテイペンギン全体にどう影響するのかを注視したいところです。
柴田:コウテイペンギンは南極環境保護議定書の下ですでに保護されています。しかし、今後繁殖地の海氷が減り、危急種になるだろうというSCARの報告書により、さらに手厚く保護しようという提案が出て、それが中国の反対により否決されました。その結果を受けて、アメリカなどでは自国の国内法でコウテイペンギンを保護しようとしています。ただ、アメリカは南極での領土を主張していない国ですが、アルゼンチン、チリ、イギリスのように領土主張している国が同様のことを始めると、自分たちが領土主張するエリアではペンギンを保護するなどの動きが出て、領土紛争が再燃しかねません。そうならないためにも単独行動ではなくATCMの合意に基づいた対策が必要であると考えます。

木村:コウテイペンギンの保護について、危急種にすべき、観光客の立ち入り規制をすべきなど、さまざまな意見が出ています。
渡辺:科学者にも意見や立場の違いがありますし、ここまで出てきた制度上の問題もあり、科学的な結論は出しにくいように思います。そもそもペンギンは海洋資源のように人間に利用されているものではないし、ペンギンの個体数によって気候変動を測るのも難しい。この状況で保護種などに指定することにどのような意味があるか、みなさんのお考えを伺いたいところです。
中村:特別保護種の指定に反対する国は、「コウテイペンギンは国際自然保護連合(IUCN)の危急種に指定されていない」という理由を挙げています。これは外交の現場にいる者にはわかりやすい議論で、それが正しいか、真に科学的かどうかは別として、IUCNで危急種に指定されれば、外交交渉での議論は、何らかの保護をする方向に向かう可能性が高まるでしょう。

国立極地研究所 伊村副所長

伊村:私は2022年、2023年とATCMに参加しました。今年、日本はコウテイペンギンを特別保護種にすべきという意見に賛成しましたが、昨年は賛成も反対もしていません。ヨーロッパを中心に、コウテイペンギンを南極の自然を守るためのシンボルとするような、科学的根拠とはかけ離れた雰囲気を感じたため、それに対して日本は意見の表明を控えたのです。ただ、科学的なデータから見ると南極の氷が減り、コウテイペンギンも減るだろうという予測は信憑性が高く、一方でその意見に反対する国が出したデータは信頼しにくいものでした。こういう状況を見るにつけ、コウテイペンギンをめぐる問題はかなりナイーブなのだと感じています。

木村:続いて、中村審議官のご講演にありました「南極条約体制と外との関連」について取り上げます。最近、気候変動枠組条約の中で南極大陸は急激に変化しており、すでに後戻りできない転換点(ティッピングポイント)を超えたのではと話題になっています。こうした観点を踏まえて、グローバルな体制のなかで南極条約の意味合いを改めてお伺いできますか。

左から、国立極地研究所 野木所長、中村審議官、渡辺教授

左から、伊村副所長、柴田教授、木村准教授

中村:ご質問の関連で私がとくに注目するのは、近年、南極における科学の成果がややもすると「西側」ののものと認知されているのではないか、ということです。南極条約の下で得られた科学的な知見や実績は決して「西側」だけでなく、全ての協議国が協力して得たものです。このことを改めて明確に示すため、南極条約体制下での科学協力がどうあるべきかを問うことが重要ではないでしょうか。また、科学的知見を要する課題として、気候変動はもちろん重要ですが、生物多様性など、他にもさまざまあります。そうした分野でも南極が客観的な科学を示し続けてほしいと考えています。
柴田:ただいま中村審議官が指摘された南極の科学の提示の仕方、これは非常に重要なポイントです。最近、有名な国際ジャーナルに「SCARが一部の研究者に牛耳られ、政治化している」という論調の論文が掲載されました。ATCMも似たような構図になってきています。私たちは、科学 は普遍的、中立的なものだと思いがちですが、違う見方もあると認識すべきかもしれません。その上で、中村審議官が指摘された通り、科学は西側のものと見られないためにもATCMでは新興国の科学者や外交官なども巻き込んだ枠組みづくりをしなければなりません。
渡辺:柴田先生が指摘されたように、科学には確かに客観的でない部分があり、とくに生態学の分野では統計の取り方によってデータが大きく変わるので、客観的であろうとしても限界があります。ここは難しい部分です。また、中村審議官の「西側の科学」について、生態学の分野で発表された論文についてはおそらく9割以上が北米、ヨーロッパ、オセアニアから出たものです。こうした現実を見ると、生態学とはつかみどころのないものを何とかつかもうとする学問なのだと、難しさをあらためて実感しました。
伊村:私は科学の成果には西側も何もないと思っています。ただ西側の国はアピールが上手い。東側の国々にとって、それは腹立たしいことでしょう。一方で日本は両方の立場や意見を理解しながら対応できる、いいポジションにいると思います。しかし日本には政治力が今ひとつ足りなくて、会議をドライブしていく力が足りないのが悔しいところです。
野木:科学をベースに物事を進めるには、不確実性を排さなければなりません。例えば氷床と海洋の問題については沿岸域の観測が重要になります。日本はこの問題に取り組もうとしているし、そこを明らかにすることが科学の確実性を担保することになります。国立極地研究所は、科学とはどうあるべきかを認識しながらその根幹を固め、次なる局面に対峙していくつもりです。
中村:みなさんのご意見から、南極条約には科学が非常に深くビルトインされていることを再認識しました。渡辺先生の発言を承ると、科学と行政の間にはグラデーションがあります。外交の現場では、科学が孕むこうしたニュアンスをよく理解した上で取り扱い、決定的な軋轢を作らないように議論・交渉をまとめていくことが肝要であることを痛感しました。


 (構成作成・市原淳子)

 

2023年10月10日

一般向け雑誌『極地』の特集「ロシアによるウクライナ侵攻と極域国際協力のゆくえ」に南極国際協力に関する論文4編が掲載されました。

稲垣治研究員(神戸大学PCRC)がゲストゲストエディターとして企画した特集「ロシアによるウクライナ侵攻と極域国際協力のゆくえ」が、南極と北極に関する一般向け雑誌『極地』第59巻第2号(2023年9月)に掲載されました。この特集は、2022年2月に開始されたロシアによるウクライナ侵攻が南極と北極の国際協力に及ぼした影響とその見通しを検討するもので、稲垣研究員による特集の趣旨説明文も含めて4編の南極国際協力に関する論文が含まれています。これら論文は、南極国際動向研究会の研究成果でもあります。
柴田明穂PCRCセンター長の論文は、ウクライナ侵攻後も継続して開催されている南極条約協議国会議(ATCM)の詳細な検討を通じて、侵攻が「南極ガバナンス協力」に与える影響を明らかにし、また2026 年に日本で開催予定のATCM への課題を提示しています。
国立極地研究所南極観測センターの野木義史教授と橋田元教授の論文は、科学者の視点から、1957-58年の地球観測年(IGY)以来、南極の現場レベルで継続されてきた観測活動のための国際協力に対するウクライナ侵攻の影響を明らかにしています。
農林水産省顧問の森下丈二氏の論文は、南極海洋生物資源保存条約が設置する南極海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)に対するウクライナ侵攻の影響を明らかにするとともに、侵攻以前からCCAMLRでみられてきたロシアと中国による「かたくなな態度」との関係を分析しています。


 

2023年9月29日

南極の未来のために、日本が果たすべき役割を考える~三菱財団助成をうけて

「南極のあるべき将来像:2025 年日本開催会議にむけた総合的提案」をテーマに掲げ、2020年から三菱財団の助成を受けて研究を推進してきました。2026 年に日本で開催される南極ガバナンスの最重要会議である南極条約協議国会議(ATCM)に向けて、岐路に立つ南極ガバナンスの将来方針につき、国内外の専門家、政府関係者と議論を行い、その成果を国際シンポジウムやセミナーで提示、それらの一部は社会実装としてYouTube 動画として公開しました。
三菱財団の助成を受けた研究者として柴田明穂センター長は、「Challenges for Future: 助成者インタビュー」を受け、9月29日三菱グループホームページにその記事が公開されました。「南極国際法」を研究テーマとして取り組むことになったきっかけ、国際法学者として初めて南極に赴くことになった経緯から、南極のために日本が果たすべき役割について、説明しています。また2026年に日本で開催されるATCMについても議題にかかわる政策志向の法的研究について言及しています。
政府の代表として条約交渉に加わった経験、国際法が南極の現場でどのような役割を果たしているかを現地調査した経験など、南極の地に立った「現場主義の国際法学者」が南極のあるべき未来を提言していきます。

インタビュー記事 「南極の未来のために、日本が果たすべき役割を考える」


 

2023年8月4日

柴田センター長が登壇する南極ガバナンス・セミナー動画が米国ウィルソンセンターから公開されました

2023年5月から6月にフィンランド・ヘルシンキで開催中のATCMに合わせて国際セミナー「今日の南極 人類の最後のフロンティア、科学と環境をめぐる挑戦」がヘルシンキ市庁舎で開かれ、柴田センター長が南極ガバナンスをめぐる挑戦とその解決策につき、米国ウィルソンセンターのブルーム氏、フローニンゲン大学のバステマイヤー教授と共に、ラップランド大学のコイブロヴァ教授の司会の下で議論しました。YouTube動画の1:43:00辺りから始まっています。セミナーの前半では、世界的に有名な探検写真家による南極海の生態系調査の様子も魅力的に動画で紹介されています。柴田センター長が準備していたプレゼンファイルも閲覧可能です。


YouTube閲覧:
柴田センター長が準備していたプレゼンファイル


 

2022年11月15日

8月に開催されたSCAR Open Science Conferenceでのオンライン研究報告の様子がYouTubeで公開されました


セッション「人新世下の南極条約体制の強靭性」

以下の研究報告が収録されています。

大久保彩子 “Interplay management in the Antarctic regime complex”
Zia Madani “The Resilience of the Antarctic Treaty System in light of Russian Invasion of Ukraine”
柴田明穂 “Aggression and the Antarctic Treaty System: The End of Antarctic Exceptionalism?”
來田真依子 “Current Development of Port State Measures in CCAMLR: Interaction with FAO Port State Measures Agreement”
幡谷咲子 “Legal Implications of China’s Proposal for an Antarctic Specially Managed Area (ASMA) at Kunlun Station at Dome A”


セッション「南極環境保護のための科学と法政策の協働」

以下の研究報告が収録されています。

原田尚美 “Basic research on the functioning of marine life in the Southern Ocean and its relationship to science policy”
稲垣治 “The Development of Concept ‘Cumulative Impacts’ under the Antarctic Treaty System”
青木茂 “Intensive observation campaign off Sabrina Coast, East Antarctica, to predict the future ice loss”
木村ひとみ “Role of SCAR in Climate Science Diplomacy under the Ukraine Crisis”


 

2022年4月25日

日本の南極地域観測事業は人文社会科学研究にも貢献できる!SCAR研究大会からのメッセージ

今次大会の統一テーマは、
The Global Antarctic=グローバル化の中の南極

2021年11月18〜19日に南極研究科学委員会(SCAR)の分科会の1つである人文社会科学常設委員会(SC-HASS)隔年研究大会が、アジア圏で初めて神戸大学極域協力研究センター(PCRC)が主催してハイブリッド形式で開催されました。自然科学を中心に展開してきた南極研究の世界的潮流は、南極におけるもしくは南極に係わる人間や社会、文化や歴史、法的展開や国際政治情勢などを研究する人文社会科学(humanities and social sciences)研究と緊密に連携しながら、社会的課題の解決に貢献することが求められています。本委員会の起源は2005年設立の歴史学アクショングループに遡りますが、世界の南極人文社会科学研究コミュニティーは拡大を続け、今次大会の参加登録者数は日本からの約50人を含む全世界から378人にものぼりました。

会場となった神戸大学出光記念講堂でのJapan Sessionの全体風景

SC-HASS研究大会は、開催国の研究コミュニティーや一般市民へのアウトリーチを重視しており、開催地基調講演(Local Keynote Lecture)が企画されます。神戸大学の稲垣治・研究企画副委員長とも相談した結果、今次大会では、日本の南極地域観測事業=JARE=に同行した人文社会科学研究者、中学・高等学校の教師、そして報道関係者を講演者・パネリストとして、JAREが人文社会科学研究に如何に貢献できるかにつき議論することにしました。このセッションは日本語で行われ、これに英語への同時通訳を付けて、全世界の人文社会科学研究コミュニティーにも、JAREのユニークな取り組みにつき紹介し、今後の日本における南極人文社会科学研究の展開可能性につき日英両言語で討論を行うことができました。座長は、第58次隊(2016-17)に同行した国際法学者で、本研究大会の主催者である神戸大学PCRCセンター長の柴田明穂が担いました。

基調講演は、心理学者で第59次南極観測隊(2017-18)に同行した静岡大学の村越真教授による「南極:認知研究のための自然の実験室」と題して行われ、南極が認知研究のための自然の実験室であり、JAREが心理学・認知科学、更にはより広く人文社会科学研究の遂行にも貢献できることを論じました。次に、2回の越冬を含む3回のJARE同行経験のある朝日新聞記者・中山由美さんが、日本の南極地域観測事業の歴史的展開の中で、記者や新聞社が果たした役割につき論じました。最後に、奈良県立青翔中学校・高等学校の理科担当の教諭・生田依子さんが、JARE教員南極派遣プログラムへの参加と帰国後の教育実践活動から、南極地域観測をテーマに探究活動を実践することが生徒の深い学びや成長につながり、ひいては、理工系人材の育成につながることを論じました。その後のパネルディスカッションでは、海外からオンラインで参加していたオーストラリアやインドの研究者からの質問も交えて、活発な討議が行われました。最後に座長の柴田センター長より、このセッションを通じて、日本の南極地域観測事業を通した南極人文社会科学研究の現状と今後の可能性につき、世界の研究コミュニティーに紹介できたこと、また日本の若い世代にも日本語でメッセージを送ることができたことの意義は大きく、このセッションを契機に更なる関連研究の進展が期待されると述べられました。

このセッションの詳しい内容は、極域総合雑誌『極地』第114号 に掲載されております。
また、本セッションの動画がYouTubeで視聴いただけます。


研究大会公式HP(英語): http://www.2021scarschass.org
公開講演会ウィーク:南極と北極が神戸にやってくる!?HP(日本語):
https://2021polarlawsymposium.org/japan_lectures/


 

2021年6月25日

南極条約発効60周年を記念するオンライン公開講演会を開催しました。

2021年6月23日、南極条約は発効60周年を迎えました。この機会を利用して、神戸大学PCRCと国立極地研究所が共催して、オンライン講演会「南極条約60年と日本、そして未来へ」を6月9日に開催しました。 司会と講演者は東京都立川にある国立極地研究所に集まり、臨場感溢れるディスカッションも含め、ライブ配信にて一般公開しました。講演会専用HPでは、一部加工した講演ビデオがYouTubeにて視聴できるようになっています。

この講演会は柴田・PCRCセンター長が企画し、2018年10月から続けてきた「南極をめぐる科学と国際動向を考える研究会」の成果も踏まえ、地球温暖化や国際政治状況が変化する中での南極条約体制が抱える課題につき、外交官、国際法学者、国際政治学者、新聞記者、そして南極観測を実施する研究者がさまざまな角度から検討するものです。2026年には、日本が南極条約協議国会議(ATCM)をホストして、これら課題の解決にリーダーシップを発揮することが求められており、極めて時宜を得た講演会及びディスカッションになりました。司会は、元NHK解説主幹の室山哲也氏にお願いし、外務省国際法局長(当時)の岡野正敬氏が基調講演「南極における法の支配」を行いました。(三菱財団2020年度大型連携研究特別助成支援事業)

国際法の観点から、神戸大学の柴田明穂教授は、全会一致制に基づく南極条約体制の正当性と実効性の課題、これまでの科学的利用中心の価値から原生地域として今のままに南極を残しておく価値をも認める必要性等につき問題提起しました。外務省の岡野正敬局長は、南極条約体制は最も成功したマルチ条約の一つであり、現段階では南極条約体制において改正の動きや環境保護をめぐる対立などは見られないものの、議論する場合には南極の現場における国家間の関係性を考慮しながら検討することの重要性について語られました。国際関係論が専門の上智大学・都留康子教授は、いずれの国際ガバナンスも静的・永続的ではなくメンテナンスが必要であることを指摘しつつ、その中での日本の調整役としての役割に期待が表明されました。都留教授からの質問に対して、岡野局長は、国際社会におけるリビジョニスト・パワーが問題にはなっているが、南極条約体制は安定しており、それを覆すのは容易ではないと語り、先手を打つ側の行動がかえって対立を生むことにならないよう、現場を見ながら慎重に進める必要があるとの見解を述べました。

過去3回南極に滞在した経験を持つ朝日新聞の中山由美氏は、記者として、現地での取材や映像をもとに、南極基地における科学調査や国際協力体制について紹介しました。国立極地研究所所長の中村卓司教授は、南極条約の下で行われてきた日本の南極観測の成果と意義について報告を行い、南極観測は科学者のイニシアティブによって成り立っており、その科学的成果と国際協力によって日本のプレゼンスを発揮できる場であると述べました。英国隊や韓国隊と南極における国際共同研究を行ってきた国立極地研究所・高橋晃周准教授は、南極科学における国際協力の重要性について語り、その科学的成果が例えば南大洋における海洋保護区設置といった政策的議論にも貢献していることが紹介されました。

その後のパネルディスカッションでは、一方で、南極観測活動に従事する科学者やそれを取材した記者からは、南極での科学研究のしやすさが南極条約の成果であり、平和利用・科学調査を保護する南極条約の精神が現場で実感できると語られました。他方で、国際社会の力学や南極に関心を示す国が増えている状況変化を分析する国際政治学・国際法学の立場からは、協議国と非協議国間の対立構造や増え続ける基地設置の功罪などに懸念が出ていることが語られました。司会の室山氏は、この南極条約に対する認識の違いこそが現状を的確に現しており、今回のようなハイブリッドな(自然科学と法政治学の)議論を続けることによってこの認識の「隙間」を埋めることの重要性を指摘しました。さらに、南極条約をATCMなどの場で議論する外交官や国際法学者、南極条約の下で観測活動を行う研究者に加えて、観光やメディアを通じて南極に関心を示す一般市民の存在も忘れてはならず、この三者の認識をうまく「化学反応」させて、1つの方向に向けて、5年後のATCMに臨む必要があることも指摘されました。


 

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