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研究の紹介

研究者探訪


バイオロギングを駆使して,世界のさまざまなフィールドで動物の生き方を追う岩田高志先生に令和4年度環境省・環境研究総合推進費の研究内容を中心にお話を伺いました。

ウェッデルアザラシ@南極

聞き手:令和4年度環境省・環境研究総合推進費革新型研究開発(若手枠)(以下,推進費)へのご採択おめでとうございます。先生はこれまで世界各地のフィールドでバイオロギングを使った動物の生態研究をされてきましたが,まずは今に至るまでのおはなしをお聞かせください。

岩田先生:動物が好きで,海も好きです。もともと哺乳類に興味があり,どうやって生きているのか,といった生態に関心がありました。アザラシやクジラは数百メートルから時には千メートル以上も潜りかつ,1時間以上も潜り続けていられる,そんな能力がすごいなと思っていました。
学部生のころは,座礁したクジラからストレスホルモンの計測をしていました。そのうち生きた動物を対象にしたいと思うようになり,バイオロギング(野生動物に行動記録計やGPS装置などの機器をとりつけ、生態や周囲の環境情報などを記録する手法)を使った生態学研究に進みました。バイオロギングを自身の持ち味にしようと思ったのは,大型の動物を調べるにはバイオロギングが適した手法と考えたからです。
 バイオロギング自体は1960年代から個々の研究者によって使われていましたが,2003年に「学問分野」として確立しました。私は,3年後の2006年にバイオロギングを使い始めたので,ちょうど分野として始まったばかりの時期にあたります。
 バイオロギングの記録計の扱いは熟練が必要です。対象とする動物への装置の付け方しだいで,データの良し悪しを左右します。私は海の中で泳いでいる大型のクジラにバイオロギングの装置をつけることも得意としています。揺れる船の上で6~7mの棒の先に装置をつけて,それをクジラが水面から身を出したときに,上手く取り付けます。日本の企業が製作しているバイオロギング装置が世界中で評判がよく,日本の装置を使って研究したい海外の研究者からよく共同研究の依頼を受けます。
やはり野外での調査自体も好きです。学生の頃の野外での調査(例えばイギリスの南極観測隊に参加)を通して,これを仕事にできればいいなと思い,今に至っています。

ナンキョクオットセイ@サウスジョージア・バード島(亜南極の島)

カツオクジラ@タイ



スナメリの鳴音をモニタリングする装置

聞き手:推進費では国内でのバイオロギングを用いたご研究をされていますが,推進費への申請のきっかけや研究内容について教えてください。

岩田先生:推進費の研究は,大阪湾に生息するスナメリ{Neophocaena phocaenoides:小型ハクジラ類(イルカ)の一種}の生態をバイオロギングや環境DNA(海や川・湖沼・土壌などの環境中に存在する生物由来のDNAを指す)など様々な手法を組み合わせて統合的に明らかにしようとするものです。これまで自身の研究フィールドは海外(アイスランド,タイ,南極近海の島など)にしかなかったのですが,本学に2021年3月に着任し腰を据えて研究ができる環境となったことから,近場にフィールドを立ち上げたかったという思いがありました。大阪湾という人間活動が盛んな海域に生息するスナメリがどのように人間と共存しているのかを知りたい,そして人間にとってもとても身近な環境に生息しているのに,ほとんどの人がスナメリのことを知らない,研究によってスナメリのことを伝えていきたい,そういったモチベーションのもと,ちょうど研究に着手していたところでした。研究対象とするスナメリは絶滅危惧種であり,自然共生,生物多様性の保全に資するテーマの募集があった推進費に,大阪湾のスナメリの研究が当てはまると思い,応募しました。
 スナメリは,熱帯から温帯アジアの沿岸生態系の高次捕食動物であり,日本においては,仙台湾〜東京湾,伊勢湾・三河湾,瀬戸内海・響灘,大村湾,有明海・橘湾の5つの海域に生息しています。スナメリは人間活動が盛んな沿岸域に生息するため,人間活動由来のさまざまな問題(汚染,ゴミ,水中騒音,衝突,漁網への絡まり)に晒されています。一方で,国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて,スナメリはEN(絶滅危惧)と指定されている動物にも関わらず,スナメリの生態がほとんどわかっていないのが現状です。今必要なのは,多面的な手法によりスナメリの生態解明に取り組むことであると考え,推進費ではスナメリの分布や食性,行動などの側面からスナメリの生態を明らかにし,生物多様性の保全につなげることを目指しています。
 推進費では,海生哺乳類の調査をこれまでやってきた経験を活かしつつ,5つの多角的な手法を用いてスナメリの生態解明に取り組んでいます。1つめは,目視による観測です。スナメリは背びれもないですし,全長1.5mほどと小さいので見つけにくいことが難点なので,ドローンを駆使しての観測を検討しています。2つめは,海水から環境DNAによってスナメリのDNAをみつけることです。これによりスナメリの生息場所をつきとめます。3つめは,座礁したスナメリのお腹のなかを調べ,何をたべていたのかといった食性を明らかにします。4つめは,水中マイクを定点に設置しスナメリの鳴音から往来をモニタリングします。大阪湾にある2か所の海峡の入り口に水中マイクを取り付けます。5つめは,バイオロギングによりスナメリの行動を追跡することです。これは漁師の網に生きた状態で捕獲されたスナメリに吸盤で記録計を装着します。生きた状態で捕獲されたスナメリに遭遇できるかは偶然によるものなので,漁の網にスナメリがひっかかったら,すぐに連絡をしてもらえるよう漁師の方々にお願いし,そのチャンスを待っているところです。

聞き手:今後の研究展望についてお聞かせください。

岩田先生:本研究のフィールド(大阪湾)も含まれる瀬戸内海に棲むスナメリ個体群は,日本国内では最大の個体数を有しています。大阪湾とそれ以外の瀬戸内海の環境は人間の活動量が異なります。大阪湾は船の往来など盛んな海域である一方,大阪湾以外の瀬戸内海は人間活動も少なく,穏やかな環境といえるでしょう。こうした極端に環境が異なるにもかかわらず,スナメリは同じ一つの系群という点がとても面白いと思っています。推進費では大阪湾に焦点をあてていますが,今後は瀬戸内海全域のスナメリを対象として研究を進めていきたいと思っています。さらには,東京湾や名古屋湾なども大阪湾と同様に人間活動が盛んな海域ですが,スナメリはなぜ人間活動が盛んな環境を好むのかについても大阪湾以外の個体群と比較することで,調べていきたいと思っています。
 また,将来,スナメリを観光資源として確立できたらよいと思っています。こんなところにスナメリがいて,スナメリの生き方を知ってもらえれば,このことをきっかけに海のことをもっと考えてもらえることにつながるのではと思っています。



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URA支援へのコメント:
今回の環境研究総合推進費の事業の特性を理解した上での有益なコメントをもらえたのがよかったです。申請書を書く上で科研費との違いがあまりわかっていなかったのですが,環境研究総合推進費では,環境省の政策や第五次環境基本計画等への自身の研究提案の貢献について申請書に示す点をアドバイスしてもらい,とても参考になりました。


関連リンク
 神戸大学HP
 個人HP(岩田高志のうぇぶさいと)
 researchmap
 環境省 環境研究総合推進費
 研究紹介(Research at Kobe 2021/03/15掲載)



2022年8月(配信)  聞き手:城谷和代,平田充宏 文責:城谷和代

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