HOME研究の紹介 > 若手研究者の紹介

研究の紹介

研究者探訪


スペイン・ジャウメ一世大学の研究チームと,光技術を応用した単一画素による画像計測法開発に関する国際共同研究を実施されている仁田功一先生に,国際共同研究の内容や今後の研究展望について伺いました。


聞き手:令和4年度JSPS二国間交流事業(スペインとの共同研究)(以下,二国間交流事業)へのご採択おめでとうございます。現在のご研究(光情報工学)を始められたきっかけについてお教えください。

仁田先生:学生の時に配属されたのは光情報処理の研究室でした。そこでは,光を使った情報操作や演算技術に興味を持って研究していました。研究テーマは,光コンピューティングや光インターコネクションというもので,光技術を用いた計算機性能の向上に関する研究でした。具体的には電子デバイスを使って光を処理するというのが研究の中心でした。そして神戸大学システム情報学研究科の情報知能工学科に助教として着任してからは,これまでの研究と並行して,“光”と“情報処理”を組み合わせた技術開発に新たに着手するようになり,センシングの研究も始めました。
 
聞き手:光を使った情報とは,どういうものか基本的なことを教えていただけますでしょうか。

仁田先生:情報処理技術に光情報は既に広く使われています。例えば,身近な技術でいうと光メモリー(CDやDVD),あるいは光通信(ファイバー)です。色(波長)の情報など,光を使わないと取り扱うことができないものは多くあり,カメラや顕微鏡,望遠鏡など,精密部品に使われている画像処理にも光情報は使われていています。ここ20年でより高性能な画像処理の技術が求められてきていますが,光情報を使って何か意味のあるデータを取得するためには,信号処理(光・音声・画像信号などを数理手法で分析・加工する技術)や情報処理が必要になってきます。すでに,インターネットや画像端末などを利用し,光技術と情報処理を組み合わせることでいろいろなことができるようになった実例が出てきています。

聞き手:光”と“情報処理”を組み合わせた技術開発とはどのような技術か教えてください。

仁田先生:画像を取得する典型的な方法は2つあります。一つは、レンズを使って像を作り,それをイメージセンサー(CCD, CMOS)で取り込む方法です(カメラにおける画像取得法)。もう一つは,走査型といって,画像を一点ずつスキャンしていく方法で,身近な例でいうと,コピー機に用いられている方法です。
 それに対して,私の研究では,単一画素計測による画像取得(シングルピクセルイメージング)を行っています。シングルピクセルイメージングとは,面で当てた光を点で取るというもので,一様な同じ光を当てるのではなく,パターンを使った光を測定対象に当てて集めた情報を一つの計測器で取得し,信号処理をして画像を作るという方法です。この方法の特長は,信号処理技術を用いている点です。信号処理には,主にコンプレッシブセンシングと呼ばれる技術が使われていました。最近では深層学習を使うことにより,画素数に対して少ない測定回数で画像処理が可能になりました。例えば100万画素(メガピクセル)の画像を取得しようとしたとき,スキャン方式であれば100万回取らないとなりませんが,この方法では,10万回という少ない回数で取得できるようになります。
 また,可視光とは異なり,波長が異なる近赤外線やテラヘルツ領域では,まだ感度のよいセンサがあまり普及していなく,高価であるという現状です。シングルピクセルイメージングはそのような領域への応用も期待されています。これまでに近赤外線を用いたガス漏れのセンサ,テラヘルツ波を用いた分析等への応用事例が報告されています。また、散乱体のもの(たとえばすりガラス)を隔てた向こう側の画像が見ることができます。
 

ジャウメ一世大学でのディスカッション

聞き手:二国間交流事業の国際共同研究の内容を教えてください。

仁田先生:二国間交流事業では,スペイン・ジャウメ一世大学を中心としたスペイン側の研究チームとシングルピクセルイメージングの開発に関する共同研究を行っています。ジャウメ一世大学の研究チームは,散乱計測,ホログラフィー計測など世界的の中でも先進的な計測方法を研究しています。一方で日本側の研究チームは,深層学習を使った信号処理,あるいは信号処理自体の新しい手法の研究をしていることに強みがあります。スペインとの国際共同研究では,計測系のノウハウをスペイン側から教えてもらい,我々が持つ信号処理技術と組み合わせることで新たな画像取得技術を構築することを目指しています。
 
聞き手:スペインとの国際際共同研究のきっかけをお聞かせください。

仁田先生:2010年にシステム情報学研究科が神戸大学に設立され,計測システム研究分野の所属になったことで計測の研究を始めるようになった頃に,日本で開かれた国際学会でジャウメ一世大学の研究代表者のTajahuerce先生の講演を聞く機会がありました。講演で紹介されていたシングルピクセルイメージングの前身的な研究を聞いて面白く,そしてまだ誰も取り組んでいない研究分野だと思いメールで連絡を取り始めました。2014年には,神戸大学若手海外長期派遣制度を利用して,8か月間Tajahuerce先生のラボに滞在させていただきました。その時の交流でのディスカッションが今の研究につながっています。また, 2019年に日本光学会の情報フォトニクス研究グループの中に立ち上げたシングルピクセルイメージングのワーキンググループの中でも,国際的な共同研究を進める気運が高まり,ジャウメ一世大学との国際交流に発展していきました。
 
聞き手:国際共同研究の魅力や苦労された点を教えてください。

仁田先生:国際共同研究の魅力は,世界で活躍する一線の研究者と交流が,研究の発展や若手研究者の育成に繋がることです。2022年は日本側の研究チームがジャウメ一世大学を訪問してお互いの研究紹介,先方の研究室見学を行いました。訪問を通じて,今後研究を進める上での共通認識を持つことができました。研究プロジェクトの若手教員の中には海外留学経験ある研究者もいますが,留学先(イギリス,スイス)とは雰囲気が異なる研究チームと交流することに意義があると思っています。研究プロジェクトのメンバーには、研究テーマに今回の共同研究を組み込んでいく形で進めることになったドクターコースの学生もいます。
二国間事業は採択まで最初の申請から3年かかったので,研究メンバーのモチベーション維持に気を遣いましたが,皆さん協力的であったので,ようやく採択に結びつきました。  

聞き手:今後の研究展望についてお聞かせください。

仁田先生:今後もシングルピクセルイメージングの研究は継続的に行っていきたいと考えています。シングルピクセルイメージング技術は発表されて15年目位になりますが,現在の技術には画素数が多くない,原理的には可能だが実際は速度が遅い等,まだ多くの課題があります。スペイン側の研究チームともこの分野で長期的に交流を持っていくことを考えており,シングルピクセルイメージングの研究を突き詰めていくことのみならず,新しい光イメージングの着想に繋げていきたいと考えています。また,インパクトのある基本アイデアが交流の中で生まれてくればよいと思っています。二国間交流事業では,来年度はスペインの研究チームと共同で論文投稿を目指して,スペイン渡航時に最終議論をしたいと考えています。二国間交流事業終了後は,論文の特集号や国際学会開催による,新たな国際共同研究の展開の模索をスペイン側の研究者から提案されているので,研究ネットワークを拡大していければと考えています。

休憩時の一コマ

集合写真



❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ 

URA支援へのコメント:
申請書の記載に関して公募開始後に申請書へのコメントをもらいました。三回申請したなかで,二回目,三回目の申請でURAコメントを活用しましたが,他大学の研究メンバーからも,神戸大のURAは,適切なコメントしてくれるんだね,と言われました。
申請書のコメントがブラッシュアップにつながり,採択に結びついたのがよかったです。


関連リンク
 神戸大学HP
 研究室HP
 researchmap
 JSPS二国間交流事業



2023年2月(配信)  聞き手:安野恵理,城谷和代 文責:安野恵理

学術研究推進室

〒657-8501 兵庫県神戸市灘区六甲台町1-1
TEL:078-803-6527

Copyright ©2020 Office of Research Management, Kobe University, All Right Reserved.