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研究の紹介

研究者探訪


人間社会における様々な関係性を経営学の理論で探究し、企業の人事担当者向けセミナーの講師や共同研究活動などの実践の場に活かされている庭本佳子先生に、研究のきっかけや現在の研究内容、今後の抱負についてお話を伺いました。



聞き手:ご研究を法学から経営学へ転向されたいきさつをお聞かせ下さい。

庭本先生:京都大学法学部、法学研究科在学時には民法と労働法を専門に研究をしており、その頃から研究職を目指していました。当時から職場の従業員の働きがい、人間関係、チームメンバーが協力する際に出るエネルギーといったことに興味がありました。 経営学へ転向したきっかけは大きく2つあります。父が経営学(組織論)の研究者のため、日頃から経営学関連のテーマに触れることが多くありました。また、在学時に京都大学で開催されていた経営学領域の学会に偶然参加し、ディスカッションが自由で面白いと感じました。経営学のアプローチにより、組織と人との関係や、組織メンバー間のコミュニケーションなどに起因するトラブルなど職場の問題を捉えることができます。法学は枠組みやロジックがしっかりある特徴の学問である一方、経営学は、研究者自らが枠組みや概念を創って、創造的に問題の解決を図ることができますし、自由に示していける点が自分の関心には合っていると思い、経営学に転向しました。

聞き手:経営学のご研究に法学の知見も活かせそうで、素晴らしい転向ですね。

庭本先生:色々な見方を知れてよかったと思います。社会科学は特にそうだと思いますが、因果関係を求める中でも、人間関係を含めた現象の複雑な点を複眼的に思考する必要があるため、自身のキャリアと照らし合わせても法学と経営学の両方を知れてよかったと思います。



聞き手:現在行っておられる研究や活動についてお聞かせください。

庭本先生:ダイナミックケイパビリティといって、組織能力にまつわる研究をしています。ダイナミックケイパビリティとは、企業が周りの環境変化に適応するために、各種経営資源を組み合わせたり、再配置したり、あるいは社外とコラボレーションをしながら、適切に、しなやかに組織を革新し続けていくことを意味します。ダイナミックケイパビリティの概念は凄く広いですが、専門とする人的資源管理の切り口から研究しています。従業員の学習、働き方、能力活用の仕方により、企業の組織能力のミクロ的な基礎を高めることを狙いとしています。

聞き手:企業の人事担当者を対象に講師をされておられますね。

庭本先生:例えば、一般社団法人日本能率協会主催の企業の人事担当者を対象としたワークショップにてファシリテーターをしました。人事担当者の方々には、人事管理業務が会社の経営理念、戦略、事業の方向性にどう繋がるのかという観点からコメントをしています。私個人としても、人事担当者やマネージャーが企業の戦略や事業の方向性と人事管理業務を連携させていくことは企業の組織能力を上手く機能させていくために重要だと考えています。

聞き手:研究の知見を社会に還元され、素晴らしいですね。

庭本先生:経営学は実学で、世に出すこと、実践と理論を架橋することを常に意識する必要があると考えています。理論がすぐに社会に役立つということを言っているわけではないですが、実践に活かすことを求められている点が経営学の難しさでもあり、面白さでもあります。 近年、学外で講師をさせていただく機会が増えてきました。兵庫県立男女共同参画センター主催のセミナーでは、女性の管理職になられた方や管理職を目指されている方を対象に、リーダーシップとチームマネジメントをテーマとして講師を務めています。その他にも産学連携活動として、従業員のアセスメントの要素となるコンピテンシー(職務の遂行に必要な能力)に関して大手企業と共同研究をしています。また、シンクタンク系のコンサル会社の従業員向けの研修も行っています。コンサル会社はリーダーシップやチームマネジメントのノウハウを持っており、知識も豊富ですが、もう少し深い理論的なところにも関心をお持ちのようなので、経営学的視点から情報提供をしています。 基本的には研究室での理論研究が研究活動のベースにあるので、現場や実践の場で展開されているダイナミクスをもっと知りたいですし、貴重な機会ですので、企業とのコラボレーション、シンクタンクとの交流を深めています。神戸大学にいるからこそ、このような機会をいただけると感じています。

聞き手:異分野融合の研究プロジェクトでのご研究についてお聞かせください。

庭本先生:本学社会システムイノベーションセンターのプロジェクト(代表:経営学研究科・上林憲雄教授)に参画しており、経営学、経済学、心理学、社会学の研究者と協同して研究を進めています。理論的な分析のみならず、例えば心理学系の研究者による統計分析など、他分野との融合により研究の視野が広がり、問題の捉え方が重層的になったと思います。異分野融合研究の魅力だと思うし、今後ももっと進めていきたいと思います。



聞き手:今後のご研究についてお聞かせください。

庭本先生:経営学はディシプリンがないと言われることもありますが、それが面白いところでもあり、学際的になる点も魅力的です。今後も、他分野の研究者と協同して、その分野の研究における原理・原則について知っていきたいと思います。組織においてダイナミックケイパビリティを醸成させる場をいかに作り出せるのか、そこでどのような学習が行われているのかなどを研究するにあたっては教育心理学やグループダイナミクスの研究者の方々とも協同できればと考えています。 なお、AIや認知科学といった研究が、経営の分野にどんどん入ってきています。そのような分野の研究を進めていく場合は理系の研究者の方々の知見を入れていく必要があり、今後の課題であると認識しています。


関連リンク
 経営学研究科HP
 researchmap
 著書紹介(神戸大学学術成果リポジトリ“Kernel”)



2020年3月(配信)  聞き手:平田充宏,城谷和代 文責:平田充宏

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