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研究の紹介

研究者探訪


「疲労」を生体センシングによって計測し,疲労による身体機能低下を助ける補聴器の開発に挑む大西鮎美先生に,2021年度ACT-X(JST戦略的創造研究推進事業)採択課題の内容を中心にお話を伺いました。


聞き手:若手研究者の助成事業の1つであるJST ACT-Xへのご採択おめでとうございます。これまでウェアラブルコンピューティングの分野で活発にご研究をされてきていますが,先生が研究者を目指すきっかけとなったのはどのようなことでしょうか。

大西先生:もともと運動が好きなのですが,学部3年の早期研究室配属のときの研究室見学で,塚本・寺田研究室にトレーニング設備があったので,「ここの研究室に入ったら運動や身体に関連した研究ができるのでは」と思い,研究室に入りました。もともと研究者になりたいという明確な思いは持っていなかったのですが,研究をはじめてみると,とても楽しいことに気づき,それから研究者を目指そうと思いようになりました。私がいる分野は,ウェアラブルセンシング・コンピューティングを行っているのですが,私は運動や視線,心拍なども含めた身体の動きをどのように機械で認識できるのかに興味があります。ウェアラブルのよさは,ずっと装着していると,普段意識していないところまでデータが取れるところです。収集したデータから新たな発見があるのが面白く思います。医療分野の方などとの共同研究を通じていろいろな人とお付き合いをしていく中で,私が取得する行動認識のデータを通して他分野に貢献できるところにやりがいがを感じています。

学会発表中

聞き手:今回採択されたACT-Xのご研究内容についてお聞かせください。

大西先生:ACT-X(JST戦略的創造研究推進事業,「AI活用で挑む学問の革新と創成」研究領域)では,身体や精神の疲労が五感に与える影響をクロスモーダルに調査し,疲労時五感を推定して疲労を考慮した五感拡張装置の開発を目指しています。眼鏡や補聴器といった五感を拡張する装具は,人々の生活の質向上に不可欠なものです。しかし人間の五感は疲労で日常的に変化する可能性があり,五感拡張装置が疲労を考慮しなければ深刻な問題を引き起こすと考えられています。私が,これまで医療系の手術中の疲労度の推定の研究などに取り組んできた中で,「疲労とは何か」「どのように計測するか」に興味を持つようになりました。また,私自身,経験的に疲れているときに周囲の声が聞こえにくくなったりすることがあり,そのような体験から疲労に合わせてアシストできる補聴器などができればいいなとおもったのが,ACT-Xでの研究のきっかけです。
ACT-Xでの私の研究の新しい点は,疲労の五感への影響を解明する点です。眼精疲労によりまばたきの回数が増えることや身体疲労により身体動作の変化があることなど,ある特定の状態での疲労そのものの研究は進んでいるのですが,疲労という感覚をどう計測するか,普段の疲労を推定し続けることが難しいのが現状です。私はこれまで,多人数,多種類のセンサーを使って複雑なセンシングをやってきた多くの経験があるので,このことを武器として,疲労時の五感を推定する研究に取り組んでいます。身体疲労や精神疲労が五感に与える影響を解明することで,五感拡張装置の計算項に疲労を入れないことの危険性を提起したいと考えています。ACT-Xの研究期間では,主に聴覚に焦点をあて研究を行っていますが,生体センシングをするだけではなく,AIを活用して拡張デバイスを作るところに私の強みがあるので,疲労時五感の推定のみならず,たとえば疲労により一時的に引き起こされる機能低下を助ける補聴器などのデバイスを作ることなど解決方法も同時に提案することを目指しています。補聴器を例にあげると,日本では高齢者などの使用者がみられますが,疲労時にはだれもが使える(使いたいと思う)補聴器を作りたいと思います。

デバイスの評価実験

聞き手:日々の研究での大変な点や楽しい点などはどのようなところでしょうか。

大西先生:生体センシングを行うときは,やり直しがきかないので一回一回が真剣勝負です。センサーを装着する被験者の体力や,被験者の動きの妨げにならないようにセンサーを付けることに気を付けます。実験には,一回の計測で被験者は二時間ほどセンサーの装着をしていただくのですが,疲労も大きくやり直しが難しいです。実験中にセンサーが作動しないことやネットがつながらないことなどのトラブルはつきものですが,質のよいデータをとるために,実験全体を計画的に行うよう事前に十分な準備をして臨みます。以前,ボッチャのオリンピック選手を対象にセンシングを行ったことがあったのですが,選手に迷惑がかからないようセンサーを装着する位置などに気をつけました。また新しく挑戦的なセンシングを行うときは,どこをセンシングすれば目的とする傾向がえられるかがわからないなど,試行錯誤の繰り返しですが,意味のあるデータが一つでも得られた時がとてもうれしく思います。
 日々の研究のなかで,研究室の学生と一緒に研究をがんばるところも研究の楽しいところと感じています。学生が自身の研究テーマを一生懸命頑張ってやっていて,はじめはできなかったことも,一年たつと,できるように成長していることを日々感じることにうれしさを覚えます。学生とディスカッションをしていると,自身では考えもつかなかったアイデアや思いもしなかった発見が出てくることもあり,とても刺激になっています。

聞き手:今後の研究者像や研究展望をお聞かせください。

大西先生:ACT-Xを通して,生体センシングにAIを活用してHuman Augmentationができる研究者を目指したいと考えています。私は,現場で複雑な生体センシング(たとえば,複数人に対して,視線,心拍,身体の動きを同時に測定すること)ができることに強みを持っていますが,この機会にAIに関してのスキルや他分野の知見を得て,さらに幅広い視野で人間拡張ができるようになりたいと思っています。ACT-X は率直にいうと,部活のような同世代の中で頑張る楽しさがあるように思います。また,研究総括をはじめこの事業にかかわる方々から応援されている感じも受けます。事業内で展開されているAIPネットワークラボ(文部科学省が進める人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト)で企画される講演や勉強会の情報もこまめに得られ,自身の研究発展にとても役立っています。ACT-Xには,この場でないと出会えないような全く違う分野の人が沢山いるので,人的ネットワークを広げて将来的に共同研究ができればと思います。
 今年度から研究室にきた留学生の指導を行うようになったのをきっかけに,海外研究者との共同研究もしたいと思うようになりました。私の研究分野で研究がすすんでいるアメリカやドイツのラボでの研究滞在にも関心をもっています。
昨年(2021年)は,競争的資金を獲得することが目標で,科研費(若手研究)とACT-Xを獲得することができました。次は,これらの成果をだすことが目標です。研究で認められる研究者になりたいと思っています。

研究室での日常(プログラミング中)

スマートシューズの展示会





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URA支援へのコメント:
学内の関係する先生方の前での面接練習は緊張しましたが,とても役に立ちました。練習の際の質問の中で,本番でも近い質問をされたものもありました。初めての面接でしたが,面接練習でどのような感じかをつかめたのがよかったです。また,動き出しの際にアイデアを聞いていただいたり,課題に関する情報を教えていただいたりしたことが,より頑張るモチベーションになりました。


関連リンク
 神戸大学HP
 個人HP
 researchmap
 ACT-X(AI活用で挑む学問の革新と創成)



2022年3月(配信)  聞き手:城谷和代,寺本時靖 文責:城谷和代

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