研究部門
膜合成バイオプロセス研究部門
近年、膜工学分野において、微生物や各種細胞を用いた有用物質の生産が注目されています。一方、有機合成化学においても、化石資源や希少金属の地政学的リスクも相まって、省エネルギー、アトムエコノミー(原子・元素レベルの省資源化)、リサイクルが重要視されています。本研究部門では、バイオと有機合成化学の融合を図り、サステイナブル社会に向けた物質生産に資する膜技術の研究開発を行っています。
森グループでは、各種分離膜、電子材料を施行した有機薄膜を創製するために高分子合成化学の新反応開発、機能発現を目指した分子構造設計を進めています。具体的には以下の2テーマについて、基礎から応用まで多様な研究を推進しています。
・膜材料合成のための有機合成反応開発
・膜材料合成のための高分子合成反応開発
荻野・丸山グループにおいては、バイオマス由来の糖成分や発酵物質などの効率的な膜分離技術の開発を行っております。更には、膜分離技術と生体関連物質の融合により、これまでは難しかったような物質の分離を可能とする新しい膜分離技術も開発しています。
荻野グループでは、膜に関して、バイオリファイナリーに関連する以下の2つのテーマを行っております。
・微生物発酵に使用する糖源の濃縮
・微生物発酵後の培養液からの発酵代謝物の選択的分離
丸山グループでは、膜に関して下記二つのテーマを行っております。
・合成高分子の単純塗布による材料表面機能化
・分離機能を有する新しい界面活性剤の開発
メンバー
- 丸山 達生 教授(部門長)
- 森 敦紀 教授
- 岡野 健太郎 教授
- 荻野 千秋 教授
- 中川 敬三 准教授
- 森田 健太 助教
- 杉田 翔一 特命助教
Research Topics
膜材料合成のための有機合成反応開発
膜材料に機能を付与するための官能基化ヘテロ芳香族化合物を幅広く合成する手法に取り組んでいます。具体的には、「ハロゲンダンス」と呼ばれる、官能基を導入するための起点となるハロゲン原子を移動させながら一度に二箇所を分子変換する反応を開発しています。
膜材料合成のための高分子合成反応開発
ヘテロ芳香族化合物をモノマーとするクロスカップリングを利用する重合反応の開発に取り組んでいます。その際の側鎖官能基の導入法や,導入した官能基が重合反応に耐えうるような高分子合成法開発をめざしています。
微生物発酵に使用する糖源の濃縮
- 荻野 千秋
- 中川 敬三
バイオマスを微生物発酵の原料として使用するには、[1]物理的前処理、そして[2]酵素による糖化処理が必要となります。微生物による発酵においては、一般的に高濃度の糖が必要とされていますが、バイオマス由来の酵素糖化液は、低濃度の糖濃度であり、かつバイオマス由来の多様な副生産物(酢酸、ギ酸、そしてフルフラールなど)が微生物発酵の阻害物として作用する事が明らかとされています。本研究では、バイオマス由来の酵素加水分解物を用いて、糖濃縮、および副生産物の除去を同時に行う技術の開発と評価を行っています。
微生物発酵後の培養液からの発酵代謝物の選択的分離
- 荻野 千秋
- 中川 敬三
微生物による発酵の後、発酵液から目的の代謝産物を選択的に分離(濃縮)する事は、物質清算を経済的に考えると、非常に重要な技術です。
一例ですが、酵母菌によるアルコール(エタノール)発酵は、近年、燃料として使用されるバイオエタノールの需要の増加に伴い、低コストで実施できるように、色々な技術開発が求められております。
合成高分子の単純塗布による材料表面機能化
私たちはこの表面の物性(物理的・化学的特性)を任意にコントロールする技術の開発を行っています。ここでは、具体的に私たちが合成した特殊な高分子を”塗る”だけで材料表面の物性を制御することを目指しています。これにより、汚れない表面や、触媒機能を持った表面、分子を認識可能な表面の作製(分離・分析に応用)が可能となります。
分離機能を有する新しい界面活性剤の開発
界面活性剤は、洗剤等で既に身近な存在ですが、我々は”洗う”以外の全く新しい機能を有する界面活性剤を開発しております。たとえば分離機能を有する界面活性剤が下図です。DNAをその塩基配列に基づき分離可能なDNA界面活性剤や、分離膜に埋め込むことにより、タンパク質分子種を分離可能にする界面活性剤の開発を行っております。これにより、酵素により生産させたRNAの分離や、組み換え大腸菌 に生産させたタンパク質を非常に高純度で分離精製することに成功しております。これらは工業的な次世代バイオテクノロジーに応用可能な、基盤技術の開発です。